【介護施設】で活躍する歯科衛生士|特別養護老人ホーム輪中の郷 共同生活グループ・鳥津さん「ここはまさに、"最期までのお付き合い"ができる場所」 

高齢化が進む日本では、介護・福祉の分野において歯科衛生士が果たす役割に期待が高まっています。しかし、老健や老人ホームなどの介護施設では、専任の歯科スタッフを置いているところはまだ少ないのが現状です。そのような中、特別養護老人ホーム輪中の郷に新卒で入職し、口腔管理を一手に担っている鳥津さんに、現在の仕事内容や魅力を聞いてみました。

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プロフィール

鳥津 亜海 さん

ナゴノ福祉歯科医療専門学校(2021年卒)/社会福祉法人 弥富福祉会 特別養護老人ホーム 輪中の郷  共同生活グループ

とりず あみ/ナゴノ福祉歯科医療専門学校を卒業後、特別養護老人ホーム輪中の郷に入職。休みの日はドライブで岩盤浴や映画に出かけてリフレッシュ!

ある一日のスケジュール

時間 項目 内容
6:30 起床 朝食を食べて身支度をし、7:30頃に家を出発。
8:00 職場着、情報収集 利用者さんの前日の食事や排泄の様子、全身や口腔内の状態などをパソコンで確認。
8:30 経管栄養の方の口腔ケア まずは経管栄養の方から、口腔ケアをスタート。往診があれば治療のアシストにも入る。
11:30 口腔ケア、食事介助 1日で利用者さん全員を診るのは難しいため、日数が開かないようにリストでチェック。
13:00 昼休憩 ほっと一息つける時間。
14:00 委員会参加 「食生活」と「看取り」の委員会に入っており、月に1~2回会議に参加。会議後は午前のケアの記録をつける。
15:00 ショートステイの方の口腔ケア ショートステイの方の帰宅前に口腔ケアを行い、口腔内に異常があれば相談員に報告。
16:00 口腔ケア、書類作成等 引き続き利用者さんの口腔ケアに回るほか、委員会の書類作成やケア用品の準備なども行う。
17:30 退勤 あっという間に一日が終了! 仕事帰りに映画を見に行くことも。
18:30 帰宅 夕食や家事、明日の準備などの用事を済ませる。
21:00 リラックスタイム テレビやSNSを見るなど、ゆったり過ごす至福の時間。
23:30 就寝 寝る前のストレッチが日課。

実習最終日、初めて見せてくれた笑顔に胸を打たれた

鳥津さんが「特別養護老人ホーム輪中の郷」のことを知ったのは、学生時代の実習。それまでは、「患者さんと長くお付き合いができる職場で働きたいな」と漠然と考えている程度だったが、当施設での業務を経験して、仕事に対する明確なイメージが湧いたという。

「一般の歯科医院にも実習に行きましたが、輪中の郷は、利用者さんとスタッフの距離が、他にはないほど近いと感じました。何より印象的だったのが、最初は機能訓練を拒否していた利用者さんに根気よく話しかけ続けたところ、15日間の実習の最終日に初めて笑顔を見せてくれたこと。心を開いてもらえたことで訓練も行えて、『私がやりたい仕事はこれだ!』と、大きなやりがいを感じました

そこで、学校を通して自分から「求人を出してもらえませんか?」と打診し、当施設のへの就職が決まった。

入職から4年目。現在の業務内容は、入居者やショートステイ利用者の口腔ケア、歯科治療が必要な場合の往診の手配やアシスト、嚥下機能の評価、カンファレンスへの参加など多岐にわたる。

「歯科衛生士は、常時1人か2人体制。一方で利用者さんは100名ほどいるので、自分が口腔ケアを行うだけでなく、他のスタッフに協力してもらうことが不可欠です。介護士や看護師、管理栄養士、ショートステイの相談員など、他職種とこまめに情報交換をしながら利用者さんを支えています」

通施設内の一角にある、歯科専用の診療スペース。施設の設立当初から口腔ケアに力を入れて取り組んでおり、このスペースも開設時からのもの。「特養での常勤歯科衛生士配置」について、愛知県内での先進的取り組み事例として施設見学も受け入れている。

 

往診を依頼する歯科医師も、利用者さんの以前からのかかりつけ医の場合も多く、全面的にサポートしてくれることに大いに助けられているという。

「ここでは、関わるスタッフ全員が、利用者さん一人ひとりにとっての“ベスト”を目指してまっすぐ仕事に取り組んでいるんです。だからこそ私も、ここでは数少ない歯科の専門家として、臆せずに意見なども言えています

2023年4月に同じ養成校から新卒で入った、後輩の三上珠璃さん(写真左)。1年たった今では、とても頼りになる存在に成長し、二人で手分けをして利用者さんの口腔管理を担っている。

アプローチの鍵は”その人“を深く知ること

介護施設での歯科衛生士の仕事は、外来の歯科医院と比べてさまざまな違いがある。その一つが、利用者さんの認知機能や身体機能が大きく衰えていること。

「特養で受け入れているのは基本的に要介護3以上の方。利用者さんによっては、『歯磨きって、何?』というところから始まったり、うがい用のお水を飲んでしまったりすることもあります。『お口を開けてください』と言ってすぐに開けてくれる方ばかりではないので、一つひとつの声かけや動作を丁寧にすることを心がけています

鳥津さんが利用者さんとのコミュニケーションで大切にしているのは、その人の背景を知ることだ。利用者さんの情報が記録してあるファイルを丹念に読み込み、以前の職業なども把握してからケアに臨んでいるという。

「たとえば海女さんをされていた利用者さんに『この時期はどんな魚が獲れるの?』と質問をしてみたら、普段の様子からは別人のように、パッと目を見開いてしっかり話してくれて。その人の背景を知ることの重要性を実感しました。そして、話をして距離が縮まると、口腔ケアもスムーズにさせてくれることが多いんです。次に伺ったときには、利用者さんはそのことを忘れてしまっているんですけどね。でも、記憶は失われても、その人のキャラクターは変わりません。どんなアプローチがその人に合っているかを少しずつ見つけながら、接するようにしています

利用者さんが歯科衛生士を覚えていることはほとんどなく、毎日が「はじめまして」。それでもたまに覚えていてくださる方もいて、その方からの「ありがとう」は深く心に沁みる。

 

こうして利用者さんと日々近い距離感で向き合っているが、特別養護老人ホームという施設の性質上、利用者さんが亡くなる場面に立ち会うこともある。

「寂しい、悲しいという気持ちはもちろんありますが、それでも、スタッフ全員で協力して、利用者さんが『食べたい』と言っていたものを最期にご家族と食べていただけたときには、良かったなと思えます」

このように、“食べること”の幸せをより深く実感できるのも、利用者さんの生活に寄り添う介護施設ならでは。

「変化の少ない施設の生活では、毎日の食事がビッグイベント。食事を楽しみにしている方がとても多いんです。だからこそ、できるだけ長くお口から食べられるように、嚥下機能の低下を食い止めることに力を入れて取り組んでいます」

 

“新卒から介護施設で働く”という、歯科衛生士としてはまれな道を選択した鳥津さん。4年目を迎えた今、改めて感じている仕事の魅力は何だろうか。

「介護施設での利用者さんとのお付き合いの長さや深さは、一般的な歯科医院の診療とは比べ物になりません。ご本人だけでなくご家族の方とお話しすることも多く、利用者さんのいろんな面を知ることができます。そして何より、その人の“人生の最期”を支えられることが、この仕事の一番のやりがいです

教えて、鳥津さん! Q&A

Q.もともと、高齢の方と関わる経験はあった?

A.ありませんでした! 利用者さんは自分のおじいちゃん、おばあちゃん世代よりもずっと年上で、そこまで高齢の方とは話したこともほとんどなくて。でも、だからこそ新鮮で面白いと感じたのかもしれません。入職してから、先輩や他職種のスタッフの様子をみて、少しずつ関わり方を学んでいきました。

Q.今後学びたいことは?

A.口の中の知識だけでなく、全身疾患の知識や薬の知識、嚥下の知識などはまだまだ必要だと感じています。現場で看護師さんに教わっていますが、自分でももっと勉強していきたいです。

鳥津さんの出身校&勤務先紹介

出身校紹介

ナゴノ福祉歯科医療専門学校(名古屋市東区)
https://www.nagono.ac.jp

超高齢社会に対応し、「保健・医療・福祉・介護」をカバーするトータルなスキルを養成。高齢者施設実習にも力を入れている。アットホームな風土で、学生と教員の距離が近いことも特徴。

勤務先紹介

社会福祉法人 弥富福祉会 特別養護老人ホーム 輪中の郷 共同生活グループ(愛知県弥富市)
https://yatomifukushikai.com/

「かかわり つながり 結びつき」を基本理念に、地域に根ざした福祉サービスを提供している特別養護老人ホーム輪中の郷。1階はホールや談話スペース、スタッフルームなどがありデイサービスの方も受け入れている。2・3階には入居者やショートステイの方のためのスペースがある。

*こちらは、2024年9月発行「就活BOOKクオキャリア秋号」掲載記事を再編集したものです。掲載情報は取材時のものとなります。

 

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