【障がい者歯科】で活躍する歯科衛生士|埼玉県立あさか向陽園障害者歯科診療所 佐藤さん「痛みを訴えられない方の気持ちを“察する”ことが役割」
心身の障がいや病気などさまざまな理由により、地域の診療所では対応できないケースも少なくない。そんな特別な配慮の必要(スペシャルニーズ)がある患者さんに対し、医科や介護の専門職と連携しながら歯科診療を行う施設がある。そんな診療所に、新卒で入職した佐藤さんに話を伺いました。
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目次
プロフィール
日本ウェルネス歯科衛生専門学校(2023年卒)/埼玉県立あさか向陽園障害者歯科診療所
さとう みか/一般歯科での歯科助手経験を経て、歯科衛生士の道へ。毎日の癒やしはペットのコザクラインコと遊ぶこと。ケージを挟んで指でちょっかいを出したりごはんをあげたり、手の上で戯れるのが癒やしのひととき。
ある一日のスケジュール
時間 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
7:00 | 起床・朝食 | 毎晩早めに就寝するので、朝から元気いっぱい! |
8:15 | 出勤 | 職場までは毎日自転車で通勤しています。 |
8:30 | 始業 | 朝のミーティングと午前診療の準備。 |
9:00 | 午前診療 | 午前は静脈内鎮静法や全身麻酔など行動調整が必要な患者さんを多く受け入れます。 |
12:00 | 昼休み | 施設の給食で昼食を取ります。好きなメニューはあんかけうどん。とてもおいしいです! |
13:00 | 午後診療 | 午後は通法で対応可能な患者さんも含めて診療。一日で12~13名ほど対応します。夕方は受診トレーニングの児童も受け入れています。 |
17:00 | 診療終了 | 片付けをして退勤。 |
17:50 | 帰宅 | 帰宅後にすぐ入浴。一日の疲れを癒やす時間です。 |
19:30 | 夕食・自由時間 | 夕食後は次の日の準備。動画を見てリラックス。 |
22:00 | 就寝 |
“挑戦してみたい” 強く心を惹きつけられた
2023年、新卒で障害者支援施設・あさか向陽園(障害者歯科診療所)に入職した佐藤さん。きっかけは臨床実習で見学に訪れたことだった。
「そこで初めて『静脈内鎮静法』により、患者さんが眠った状態で診療するという光景を目にして、とても驚いたんですと。それまで障がいのある方と接したことがなく未知の分野だったのですが、大変そうというよりも“挑戦してみたい”という気持ちのほうがずっと強く、障がい者歯科に興味を持ちました」
佐藤さんは見学から始めて、1ヶ月ほどで静脈内鎮静法のアシストにつくようになった。
「鎮静をしている患者さんは咳嗽反射(がいそうはんしゃ)を抑制してしまうので、誤嚥を防ぐために水が喉の奥のほうに入らないように吸引する必要があります。学校で習う一般的なバキューム法とはまた違うテクニックが求められますが、先輩が丁寧に教えてくれて、着実に身につけられました」
静脈内鎮静法以外にも全身麻酔や通法での診療もしており、診療補助や口腔衛生指導、問診、移乗の介助なども行う。そのどの過程においても、歯科の専門知識・技術に加えて個々の障がいに合わせた治療“以外”の細かい配慮が必要とされる。
「最初は『なんて体力の要る仕事なんだ!』と驚きました。また、他職種との密な連携・コミュニケーションが必要であることも大きな特徴です。看護師から車椅子介助の指導を受けたり、看護師の問診内容をもとに患者さんへの接し方を考えたり。介護職員とは食事形態について話し合ったりもします」
通常のX線撮影室に入るのが難しい方や鎮静中の方のために、ポータブルレントゲンも配備。ユニットに寝たままの状態で撮影ができる。撮影時は患者さんも診療室内のスタッフも全員防護衣を着用する。
必要に応じて体を固定できる抑制具を使用。患者さんの体の大きさや身長に合わせてサイズを使い分けている。
自分の顔を覚えて手を振ってくれる人がいる
決して楽な仕事とは言えないが、佐藤さんを突き動かすのはやはり「人の役に立ちたい」という使命感。
「再診の際に私のことを覚えてくれていたり、手を振ってもらえたりするとうれしくて。そんなふうにコミュニケーションが取れると、もっとその人のために何ができるかな? と考えます。患者さんのなかには悩みや不安を訴えられない方や、痛みを訴えられないという方もいます。一人ひとりの身になって考え、患者さんの様子から“察する”テクニックも学んでいます。自分のことを表現するのが難しい方の感情を感じ取って対処する。それも私たちの大切な役割だと感じています」
当面の目標は、“一歩先の行動ができるようになること”。疾患や障がい、患者さんそれぞれの特性を把握して、先回りして動けるようになりたいと佐藤さんは話す。
「先輩を見ると、本当に堂々としているし、とても上手に会話をしているんですよね。私も自信を持って対応し、患者さんから信頼してもらえるような歯科衛生士になりたいです」
診療では防護服を着用。スタンダードプリコーションを徹底している。
ユニットはチェア以外が可動式。チェアを単独にできるので、不穏な状態の方や車いすの方のために、必要に応じて十分なスペースを確保できる。
誤嚥防止のためバキュームと併用して歯列に合わせて使える吸引器具(写真上)と開口器(写真下)
佐藤さんの出身校&勤務先紹介
出身校紹介
学校法人 タイケン学園 日本ウェルネス歯科衛生専門学校(東京都板橋区)
https://taiken-jwd.com/
少人数制で一人ひとり丁寧に指導する方針。「心からのケア」ができる思いやりを持った歯科衛生士の育成を目指し、知識・技術に加え、人間力の養成に力を入れている。
勤務先紹介
埼玉県立あさか向陽園障害者歯科診療所(埼玉県朝霞市)
https://www.sswc-gr.jp/asaka/page02_4.html
障害者支援施設「あさか向陽園」併設の歯科診療所。地域の歯科では治療できない、特別な配慮の必要(スペシャルニーズ)がある患者を受け入れている。
*こちらは、2024年6月発行「就活BOOKクオキャリア夏号」掲載記事を再編集したものです。掲載情報は取材時のものとなります。