【災害支援】で活躍する歯科衛生士|愛知県歯科衛生士会・杉山さん「常時も非常時も、『人に寄り添う』ことが私たちの強み」

地震や台風など、自然災害が多い日本。災害時には、発生直後の現地調査から、長期にわたる避難生活での口腔ケアまで、歯科衛生士が活躍できる場面が多くあります。愛知県歯科衛生士会で災害支援の調整役を担当し、愛知県JDATの一員として自らも能登半島地震の被災地で活動を行った杉山さんに、リアルな体験談を伺いました。

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プロフィール

杉山 いづみさん

名古屋デンタル衛生士学院(2007年卒)/愛知県歯科衛生士会(災害対策委員会)

すぎやま いづみ/歯科衛生士養成校を卒業後、総合病院や一般歯科、行政などを経験し、現在は愛知県歯科衛生士会に所属し、一般歯科医院に勤めている。小学校2年生の男の子の母でもある。

所属先紹介

愛知県歯科衛生士会
https://aichi-shika.com

「女性の働き方改革を支援し、社会の要求にこたえて地域で活躍できる歯科衛生士」を目指し、口腔保健の普及啓発、歯科衛生士の資質向上のための研修会の運営・開催などの活動を行っている。

JDAT(Japan Dental Alliance Team:日本災害歯科支援チーム/ジェイダット)

災害発生後おおむね72時間以降に地域歯科保健医療専門職 (歯科医師会主催の災害歯科保健医療体制研修会の受講者等により編成されるチーム。緊急災害歯科医療や被災者への口腔衛生を中心とした公衆衛生活動の支援を通じて被災者の健康を守り、地域歯科医療の復旧を支援すること等を目的としている。 災害発生後、まずは被災地のJDATが被災状況の収集や各機関への情報提供を行い、必要に応じて他都道府県から支援チームが派遣される。

参考:
日本歯科医師会 災害歯科医療対策について
https://www.jda.or.jp/dentist/disaster/

日本災害時公衆衛生歯科研究会 資料
http://jsdphd.umin.jp/pdf/20211107.jdat.nkkk.handout.pdf

初めから「診療所の外」に目が向いていた

歯科衛生士養成校を卒業後、総合病院や一般歯科での診療、行政機関での保健指導など、幅広い仕事に従事してきた杉山さん。現在は子育てをしながら、一般歯科で歯周病治療に取り組んでいる。そんな杉山さんは、実はもう一つの顔を持っている。

「愛知県歯科衛生士会の『災害対策委員会』に所属しています。普段は災害支援に関する研修や訓練など、非常時に備える活動をしています」

杉山さんが災害支援に関わることを決めたルーツをたどると、1995年の阪神・淡路大震災にさかのぼる。

「当時は小学校5年生くらいでしたが、二段ベッドの上で寝ていたら、大きな揺れで、天井の壁紙がスパッと割れて。その経験から、災害は人ごとではなく、身近なものと考えるようになりました」

さらに、杉山さんが、歯科衛生士として“診療所の外”で働くことに意欲的な理由はほかにもある。

「母も歯科衛生士の資格を持っており、私が高校1年生の頃に復職して、歯科訪問診療における口腔衛生管理などを行っていました。その姿を見て同じ職業を選んだので、もともと歯科衛生士の活躍の場を広くとらえていたんです。新卒のときの就職先も、クリニックではなく総合病院の口腔外科を選びました」

そして、この病院時代の経験が、杉山さんの「医療人としてのあり方」を決定づけた。

「歯科衛生士も当直をやるし、救命救急室にも行くし、救急車にも乗る。そんな環境で働く中で、『地域医療』や『災害支援』の意識が自然と身につきました」

こうした背景があったため、歯科衛生士養成校卒業時から加入している愛知県歯科衛生士会でも、災害支援に関する研修に積極的に参加。その意欲と人柄が評価され、県全体の災害歯科保健歯科衛生士を束ねる、“ロジスティック”と呼ばれる役職を担当するようになった。
2022年には、日本歯科医師会(日本災害歯科保健医療連絡協議会)が「JDAT(日本災害歯科支援チーム)」を創設。災害時には、各都道府県の歯科医師・歯科衛生士による「JDAT」が組織される体制が整った。

日本歯科衛生士会が発行している「災害歯科保健活動歯科衛生士実践マニュアル」。災害発生時の体制や活動内容、スケジュール例などがまとまっており、毎年更新。同内容は日本歯科衛生士会のサイトでも確認できる

災害支援は、臨床の延長線上にある

2024年1月1日16時10分、能登半島地震が発生。
そのころ、杉山さんは夫の実家にいた。

「家族でバーベキューをしていたのですが、夫が『すぐに君の出番が来るはずだから、片付けは任せて歯科衛生士会に行っておいで』と送り出してくれたんです。こうした家族の理解に本当に助けられています」

地震発生から4日後の1月5日には、派遣要請が来た際にタイムラグなく対応ができるように人員把握をスタート。1月18日~21日に初動隊が輪島市に入った。

その後、1月18日に日本歯科医師会からJDAT愛知に正式な派遣要請が発出。1月19日に「ADH災害支援歯科衛生士登録者」を対象とした派遣調整を開始し、1月25日からJDAT愛知の被災地派遣がスタートした。以降3月10日まで、1ヶ月半にわたり継続的な支援を行うことになり、杉山さんもこの一員として、1月29日から3泊4日の日程で輪島市での活動に臨んだ。

「全14班が交代で支援を行い、1つのチームは歯科医師と歯科衛生士2名、事務局スタッフの4名体制。そのなかで私たちはアセスメントを行い、地域と医療と保健を繋ぐ任務をしました。幸い大きな余震に見舞われることはありませんでしたが、街中の建物や地面が大きく傾く様子には、映像で見るのとは全く違う衝撃がありました」

避難所を訪問してヒアリングを行い、その結果をまとめて地域の保健センターに報告。また、自ら被災しながらも地域医療のために尽力している地元の歯科医師に対して、歯科医療を必要としている人の情報提供などを行った。

「もちろん、避難されている方と直接関わる場面もありました。その際には、被災者の方の気持ちに寄り添って、控えめに声をかけることを心がけていました。自分から積極的に動くというよりは、日常に戻るお手伝いをする、という感覚ですね」

支援現場で用いる歯科医療救護報告書や歯科治療必要者申し送り票

杉山さんら愛知県JDATの支援チームが着用したビブス(活動着)

実は、こうした災害支援活動は、普段の臨床でのアプローチと共通する部分も多いと杉山さんは話す。

「歯科衛生士って、普段から患者さんの反応をよく見てブラッシング指導をしていますよね。だから、対人関係にすごく強いんです。押し付けるのではなく寄り添って、“提案”をするのが私たち歯科衛生士。だからこそ、災害支援の現場で役に立てる職種だと実感しました」

“何をするのかを決める”ところから、臨機応変な対応力が必要とされる災害支援。「歯科衛生士」であると同時に、「一人の人間」としてのあり方が問われる場でもある。

「災害支援を通じて深く感じたのは、人生において、無駄な経験は何一つないということです。私自身を振り返ってみても、そのときどきでやりたいことに取り組んできた結果、たくさんの人との出会いに恵まれて、今の自分が形づくられています。これからも、『まずは動く』をモットーに、災害時にも活動できる歯科衛生士を目指して走り続けるつもりです」

いつ起こるか分からないのが災害。歯科衛生士として日頃からできることとして、災害関連死を防ぐために、普段から地域の口腔リテラシーをボトムアップさせておくことが大事だと語る

支援活動での「忘れられない瞬間」

看護師から掛けられた一言

1回目の派遣に入った際、「歯科さんのチーム見つけた!」と、看護協会の派遣看護師さんから声をかけられました。別の避難所に歯科治療が必要な被災者がいるという情報を得て、支援に直結。この医療連携は、先人たちの努力で「口腔が大切」という認識が浸透した結果だと思うと鳥肌が立ちました。

温かい支援の輪

現地での活動中に、同じく支援に来ていたコーヒー屋さんが、コーヒーを振る舞ってくれたんです。なんと、常連のお客さんが「支援している人も心が疲れるから、お宅のコーヒーで癒やしてあげて」と促してくれたのだそう。「誰かのために自分ができることをする」大切さを身に染みて学びました。

歯科衛生士として災害支援に貢献するには

各都道府県JDATでの災害支援活動には、日本歯科衛生士会の「災害歯科保健歯科衛生士」等の登録が必要となります。登録に際しては、まずご自身が住んでいる地域の歯科衛生士会の担当者へご相談ください。歯科衛生士会に入会することで、さまざまな研修に参加できたり、いろいろな人に出会えたりすることができます。

日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/

愛知県歯科衛生士会
https://aichi-shika.com/

 

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