「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」はどんな歯科医院? 歯科衛生士が就職するメリットは?
皆さんは、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所 ※通称・か強診(かきょうしん)」について聞いたことがありますか?
クオキャリアに掲載されている求人では、該当する医院の求人情報欄には、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」と書かれているので、そちらで見たことがあるという人もいるかもしれません。
ではどうして求人情報の中にそれが書かれているのでしょうか?
この記事では、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」が何なのかと、歯科衛生士にとっての意味についてお伝えします。
2024.05.28追記 令和6年度歯科診療報酬改定により、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」は「口腔管理体制強化加算(口管強)」に名称が変更され、施設基準の見直しが行われます。「継続的・定期的な口腔管理による歯科疾患の重要化予防の取組を推進」という目的に変更はなく、またすでにか強診届出を行っている場合は、令和7年5月31日まで経過措置として「口腔管理体制強化加算」の届出は不要となっています。 |
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目次
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)って?
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)は、虫歯や歯周病など歯科疾患の発症や重症化を予防し、歯の喪失を防ぐための医院として、いくつかの要件を満たし厚生労働省に届出をした医院のことです。
皆さんもご存じの通り、近年では、従来のように悪くなってから治すという治療型の歯科診療ではなく、定期的な検診やメインテナンスでお口や歯を健康な状態で維持する予防診療が重視されています。それを促進するため、2016年の診療報酬改定の際に新たに制定されたのが、この「か強診」制度です。
患者さんにとってのメリット
本来、保険診療の対象は「治療」に限られ、予防を目的としたスケーリングやフッ素塗布といった処置については、保険を適用できるのは3ヶ月に1回と制限されていますが、「か強診」届出施設であれば毎月保険適用でそれらを行うことができます。そのため、患者さんは予防診療に通いやすくなり、虫歯や歯周病の早期発見・早期治療につながるのです。
- 毎月保険適用で、予防を目的としたスケーリングやフッ素塗布ができる
- 予防診療に通いやすくなり、虫歯や歯周病の早期発見・早期治療につながる
歯科医院にとってのメリット
また歯科医院側にとっては、「か強診」であることで、以下のような経営面のメリットがあります。
- 患者さんからの信頼が高まり増患を期待できる
- 一部の診療については診療報酬も加算される=収入UP
「か強診」になるには?
「か強診」の医院には、安全性の高い歯科医療を提供することや、医療や介護等を含む幅広い知識を持って地域医療の一端を担うことが求められます。
そのため、診療実績や施設などさまざまな基準を満たすことが必要となります。
「か強診」の施設基準
条件は大きく下記6つの項目に分けられ、それぞれ細かく基準が定められています。
1.歯科医師や歯科衛生士の人数・研修修了実績
歯科医師が複数名配置されていること又は歯科医師及び歯科衛生士がそれぞれ1名以上配置されていることなど
2.指定された項目の過去1年間における算定実績
例)歯周病安定期治療またはフッ化物歯面塗布処置の算定回数など
3.訪問診療の体制
歯科訪問診療の算定回数、または連携する在宅療養支援歯科診療所に依頼した歯科訪問診療の回数
4.地域医療連携
例)学校校医等に就任していること
5.指定された設備や備品の設置
例)AED、酸素供給装置の設置など
6.衛生管理体制
例)口腔外バキューム、滅菌器の設置など
「か強診」届出に関連する3つの届出
「か強診」とは別に、「か強診」と重なる部分が多い3つの施設基準「歯初診(ししょしん)」「外来環(がいらいかん)」「歯援診(しえんしん)」があります。
1.歯初診(歯科点数表の初診料の注1に規定する施設基準)
診療の際に、確実に洗浄や滅菌された器具を患者さんごとに交換して使用するなど、院内感染防止策をきちんと実践している歯科医院が届出できる制度です。
2.外来環(歯科外来診療環境体制加算)
歯科医師が安全に関する研修を修了していたり、救命救急用や感染防止の器具がそろっていたりと、医療安全に備えた環境が整っている歯科医院が届出できる制度です。
3.歯援診(在宅療養支援歯科診療所)
医科医療機関や地域包括支援センター等と連携を図り、歯科の立場から自宅や介護施設で患者さんのサポートを行っている歯科医院が届出できる制度です。
「か強診」の歯科医院ってどれくらいある?
「か強診」の届出をしている歯科医院は、2022年時点で11,795軒(※1)。全国の歯科医院67,614軒(※2)の約17%となっています。
届出数は徐々に増えてはいるものの、まだ「か強診」の医院は少ない状況にあります。
医院にも患者にも大きなメリットがある制度であるにもかかわらず届出率が伸び悩んでいる原因の一つは、基準をクリアすることが難しいことです。
特に、訪問診療の実績、歯科医師や歯科衛生士の人数に関する要件などがハードルになっていることが多いようです。
※1:厚生労働省:中央社会保険医療協議会
総会(第573回)議事次第 歯科医療(その3)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00232.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001178971.pdf
※2:厚生労働省:医療施設動態調査、令和4年12月末概数
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m22/dl/is2212_01.pdf
か強診になると、こんなことができる!
か強診になるとできること(1) 歯周病の重症化予防
通常、保険適用での検査・歯石除去・歯面清掃は、3ヶ月に1回までという制限がありますが、月1回まで保険適用で行うことができるようになります。
か強診になるとできること(2) 虫歯の予防
虫歯の予防に効果的なフッ素の塗布についても、通常だと保険適用は3ヶ月に1回までですが、月1回まで保険適用で行うことができます。
か強診になるとできること(3) 口腔機能低下の重症化予防
在宅・訪問診療での口腔ケアや、リハビリテーション指導・管理などを保険内で行うことができます。
「か強診」医院とそれ以外の医院の診療報酬点数の違い ※令和4年4月1日段階
区分 | 「か強診」医院の場合 | それ以外の医院 |
---|---|---|
エナメル質初期う蝕管理加算 | 260点 | - |
長期管理加算 | 120点 | 100点 |
歯科訪問診療補助加算 | 同一建物居住者以外の場合115点 同一建物居住者の場合50点 |
同一建物居住者以外の場合90点 同一建物居住者の場合30点 |
在宅患者 訪問口腔リハビリテーション指導管理料 |
右記 +75点 | 10歯未満 400点 10歯以上20歯未満 500点 20歯以上 600点 |
歯周病安定期治療 | 右記 +120点 | 10歯未満 200点 10歯以上20歯未満 250点 20歯以上 350点 |
「か強診」の医院って歯科衛生士の就職にオススメ?
「か強診」に届出されている医院は、どうして厳しい基準があるにもかかわらず「か強診」の届出をしたのでしょう?
診療報酬に加算がある(収入が増える)という側面もありますが、多くの場合、「より質の高い歯科医療を提供することで、地域のかかりつけ歯科医院として選ばれるため」ということが、届出をした目的の一つになるでしょう。
見てきたように、「か強診」になると、予防や訪問診療においてより手厚い診療を提供できるようになります。
そのため「か強診」に届出している医院の中には、「患者さんに予防のために継続的に通ってもらい、長く口腔の健康を守ること」や「訪問での口腔ケア」を重視している医院が多いと考えられます。
そういう医院であれば、自ずと歯科衛生士の役割が高まり、口腔ケアを中心に主体的に活躍したいと考えている歯科衛生士にとっては理想的な環境なのではないでしょうか。
また、設備や衛生管理が整っているのもメリットです。自分自身が安心して働けるのはもちろん、患者さんにも「安心・安全な医院である」という自信をもって接することができるでしょう。
「か強診」医院はこんな人にオススメ!
- 訪問診療に興味がある人
- 予防を中心に活躍したい人
- 地域貢献に取り組みたい人
- 他の医療・介護施設などとの連携に関心がある人
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就職先が「か強診」じゃなくても大丈夫?
「か強診」にはメリットが多く就職先としてもオススメではありますが、かと言って「か強診」でない医院が就職先に適さないということではありません。
そもそも「か強診」は主に予防や訪問診療を想定した制度ですので、矯正や審美といった専門分野を主に取り扱う歯科医院では関係する部分が少なくなります。ですからそれらの分野を考えている方は、気にする必要はないでしょう。
そして見てきたように「か強診」に届出するには、厳しい基準をクリアする必要があります。
そのため、「院内での診療実績や設備の基準は十分満たしているけれども、訪問診療は行っていない」といった事情で届出ができないケースも少なくないでしょう。そのため「か強診」でなくても、設備が充実していたり、予防で活躍できたりする医院はたくさんあります。
また届出されている医院は全国の歯科医院の約17%しかなく、「か強診」を条件に絞ってしまうと、職場の選択肢が一気に狭まってしまいます。
よって、「か強診」は職場選びの絶対条件にするのではなく、あくまでも判断材料の一つとして留めておくのがよいでしょう。
- 矯正や審美などの専門医院を検討している人にとっては気にする必要がない
- さまざまな基準のうち一つ満たさないだけでも届出できないため、医院個別の事情で届出していないケースもある
- か強診の歯科医院は少ない
=つまり、予防や訪問に興味がある人の「判断材料に一つ」にするのがおすすめ!
「か強診」医院の実際のところをご紹介
「か強診」の医院は、具体的にどんな目的で届出をすることにしたのでしょうか?そして届出をしたことで、就業環境や業務内容にどんな影響があったのでしょうか?実際に「か強診」の医院に、届出をする前・した後について聞いてみました。
※2023年2月クオキャリア実施・当社ご利用歯科医院アンケートより抜粋
「か強診」医院が届出をした具体的な理由って?
「か強診」に届出をした目的として多く見られたのは、保険点数の加算や、患者さんに安心して通っていただくためなど経営面の理由です。
加えて、「高齢者・成人・小児と幅広い年齢層に予防を行えると考えたから」「予防歯科を軸に診療体制を構築するため」「歯科疾患の重症化予防に力を入れていくから」など、DHの業務や働き方にもかかわる理由もたくさん挙がりました。
また、スタッフのモチベーション向上や給与額アップを考えてという答えも見られました。
それでは次に、実際に「か強診」になった後、歯科衛生士の就業環境や業務内容にどんな変化があったのかについても見ていきましょう
「か強診」届出をしたことで、就業環境や業務内容にこんな影響があった
就業環境(給与)
- 給与を上げることができ、従業員満足度向上につながった
- 点数が上がるため、歯科衛生士の給与をアップしやすい
就業環境(給与以外)
- 安全対策や医療体制が整っている証しとなり、人材採用にプラスに働いている
- 届出へ向けて診療環境を整える必要があったため、スタッフの働きやすさが増した。患者数も増え、給与水準も上げられた
- 「か強診」では高度な感染症対策が求められます。見学に来られた歯科衛生士学生さんに、オートクレーブ、口腔外バキューム、滅菌パウチ使用による形成バー、リーマー、ファイルの滅菌などをお見せして環境の良さをPRできました
仕事内容
- 歯科衛生士が活躍できる職場であるという印象を与えられている
- メンテナンスに来てくださる患者様が増え、歯科衛生士の業務内容の比重が変わった
- 歯科衛生士が本来の業務に専念できる仕組みづくりにつながった
スキル向上
- リスクが高い患者様に短いスパンで来てもらえるため、歯科衛生士も患者様の管理ができスキル向上につながっている
- 外来で診ていた患者様から訪問の依頼があったりして、かかりつけ医としての自覚が歯科衛生士にも生まれた
応募・採用
- 予防型医院に完全に舵を切ったことで、質の良い歯科衛生士の確保が可能になった
- 訪問診療をやりたい学生から応募があった
- P処に興味がある歯科衛生士の採用につながりました
- 届出のために訪問診療を始めたところ、訪問診療に興味がある歯科衛生士を採用できた
- 売上が上がったため、歯科衛生士の採用の必要性が増した
※2023年2月クオキャリア実施・当社ご利用歯科医院アンケートより抜粋
「か強診」の今後はどうなる?
「か強診」については、2016年の制定以降何度か改定が行われていますが、2024年には制度改定が行われることになっています(※3)。現行の「か強診」は廃止されて「口腔機能管理体制強化加算」に全面移行し、要件・評価についても一部変更されることが予定されています。
この改定では「口腔機能管理」が重視され、これまでの「か強診」と同様の診療報酬の加点を維持するためには「口腔機能管理」の実績が必要となります。
そのため今後は、診療・予防体制そのものに「口腔機能管理」を含めることが求められてくると考えられます。
また施設基準の中に「小児口腔機能検査」が入ることになっており、小児の口腔管理がより重視されつつあることも伺えます。
歯科業界がこのような方向にあることから、「か強診」の医院においては、これまで以上に歯科衛生士の役割が大きくなるはずです。また同時に、歯科衛生士一人ひとりがそれに対応できるスキルを身につけることも必要となってくるでしょう。
※3:令和6年度診療報酬改定について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
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