卒後1年以内に辞めてしまった。これから歯科衛生士としてやっていける?|キャリコン歯科衛生士のお悩み相談室#2
皆さん“キャリア”というと計画を立てその道筋に沿って進んでいく…というイメージが強いかもしれません。
しかし実際、そんな教科書通りにうまくいくことばかりではないはずです。
キャリアってなんだか難しそう、そこまで考える必要があるのかな…と思う方もいるでしょう。
本連載は歯科衛生士と国家資格キャリアコンサルタントのダブルライセンスを持つ冨澤幸子さんが、歯科衛生士としての臨床経験のほか、歯科衛生士養成校の教員や一般企業での勤務経験など多彩なキャリアを歩んできた経験を活かし、皆さんのキャリアのお悩みにお答え。
歯科衛生士という道を選んだ皆さんがその資格を活かして楽しく職業人生を送れるよう、考え方・生き方のヒントをお伝えしていきます。
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目次
プロフィール
歯科衛生士/国家資格 キャリアコンサルタント
とみざわ さちこ/金融機関での営業職を経て、歯科衛生士にキャリアチェンジ。歯科衛生士養成校を卒業後、歯科クリニックや市役所、歯科衛生士養成校に勤務。現在は企業の人材確保・採用支援に関わる仕事に携わっている。
「辞めた」選択からも得られる経験がある
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「卒後1年以内に辞めてしまった。これから歯科衛生士としてやっていける?」
やっていけます。卒後1年目のあなたはまだまだこれから。
続けることが歯科衛生士としてのキャリアを重ねる経験になることはもちろん、「辞めた」という選択をしたことも自分のこれからの人生に大きな影響を及ぼす経験となります。これから先5年後10年後のあなたにとって、必要な経験だったと思えるように、少し振り返って整理してみませんか。
短期間で辞めること、それは確かに歯科衛生士としての経験を少し区切ることになるかもしれません。予防や疾病の治癒の経過を知るのに、長く働くことで学べることはたくさんあります。
それでは、逆に「辞めた」ことから学べることは何でしょうか。
辞めて“しまった”と表現しているということは、あなた自身の中で、今回の退職について今はネガティブに捉えていることがうかがえます。少なくとも、「自分が思い描いていたキャリアとは違う」「○年は続けたかった」という気持ちがあって、そうならなかったという想いはあったのかな、と。
そんなふうに思っているあなたですから、辞める決断をする前にたくさん悩んだり、モヤモヤしたことや苦しいことがあったりしたのではないでしょうか。その中で迷いながら一つ決断をしたことは、勇気のいることでしたね。よく頑張りました!
(実は、「1年以内に辞めた」という同じ経験でも「辞めてよかった」「人と違う冒険ができた」などと違う捉え方をする人もいるんです。)
「辞めてしまった」と思う理由は何でしょうか。いろいろありますよね。
- 同級生は続けて歯科衛生士として経験を積んでいる中、続けられなかった自分を卑下してしまう。
- 「頑張れなかった」「逃げてしまった」と思えてしまう。
- 次の就職をする時「続かない人」「すぐ辞める人」と思われてしまうのではないか。
それが事実かどうかや良いか悪いかはいったん置いておいて、こうした気持ちや自分が置かれていた状況としっかり向き合うことで、自分の中の譲れない部分や変えたい部分が見えてくるかもしれません。
まずはもう一度、入職してから退職するまでの日々を振り返ってみましょう。
「できるようになったこと」があなたの強みになる
まず、
できるようになったこと、得意なこと
を探してみましょう。
まだ完璧にできていると思えなくても、少しできるようになってきている、入職時よりも上達したことも大歓迎!
長所や得意なことは、「自分にとっては当たり前」だったりします。だから、自分では思いつきにくい人もいるかもしれません。そんな時は、職場の人、患者さん、家族などから言われたちょっとしたことを思い出してみてください。自分では当たり前のことでも、実はあなたの強みや人柄の特徴だと思いますよ。
できるようになったこと、得意なことの例
- 笑顔を絶やさず問診できた
- ものの位置を覚えた
- 朝の準備の仕方
- 患者さんが安心できるように声掛けを頑張った
これらのことを整理していくと、その職場で学んだこと、できるようになったことが浮かび上がってくると思います。
もし歯科衛生士としての知識やスキルがあまり思い浮かばない…という人も大丈夫。
ぜひ「人として/社会人として」のことも含めて考えてみてください。
人として/社会人としてできるようになったこと、得意なことの例
- 頑張って電話に出た
- 教えてもらったことはメモを取った
- 誰にでもあいさつするよう頑張った
- 丁寧な言葉遣いを心がけた
これらの中には社会人としてとても大切なビジネスマナーが含まれていると思いますよ。これからのあなたの特徴・強みになっていくはずです。
思い出せることはありましたか?
これらは「あなたが成長していた」という大切な証です。できるようになろうと努力したこと(まだ「できる」とまでは言えないこと)も大切な成長のたまごです。
短い期間で辞めたとしても、それはあなたにとって貴重な経験です。その日々の中での自分の変化を丁寧に見ていくことで、自分のものの見方や考え方の特徴を見つけることができます。
そして自分が仕事に何を求めているか、何を大切にしたいと思っているか、が見えてくるのです。
「辞めるきっかけになったこと」から見えてくるもの
「先輩が忙しそうで質問できなかった」から見えてくるもの
次に、
- 難しかったこと
- 違和感を覚えたこと
- 辞めようと思った出来事、その時の自分の気持ち
を挙げてみましょう。
たとえば、こんなエピソードはありましたか。
「先輩が忙しそうで質問できなかった」
そんなあなたは、
- 相手の状況を考えることができる
- 優しい気遣いができる
という素敵な長所を持っている人です。
一方、
- 仕事に慣れるのに時間がかかり、忙しいときにみんなを手伝えない
- 仕事を覚えるのに時間がかかってしまう
というのも事実です。
また、
- 先輩はあなたに「手伝ってほしいと思っていた」
かもしれません。
あなたの長所を生かしながら、デメリットを補える方法を一緒に考えてみましょう。
- 患者さんへの対応や周りをどうフォローしているかなど、普段から先輩の行動をよく見て覚える
- お昼休みなど時間の空いたときに、さっきは忙しそうで手を出せなかったことを伝え、同じことがあったときにどうすればよいか聞いておく
あなたの素敵な長所は、それを表現する行動をした時に相手に伝わります。
話しかけるタイミングとか、その場でできることを考え前向きに踏み出した行動でも、うまくいかないこともあるかもしれません。でもそれはあなたの大切な経験になり、周囲があなたをチームの一員として認めてくれる出来事になるはずです。
仕事(歯科医院)では、一人一人がその会社(医院)の目的に向かってそれぞれの役割を、責任をもって果たすことが求められます。その瞬間は難しくても、チームの一員となるために自分ができることを考え、一歩を踏み出すことはこれからのあなたにとって大きなパワーとなるはずです。
もしバシッと解決策が見つからなくても、周囲にどうしたらよいか相談することもチームの一員としての役割を果たす大切な一歩。「忙しい時間にお手伝いをしたいけれど、どう声をかけたら迷惑にならないですか」など「あなたの考え」を伝えることで、あなたに対して信頼が生まれ、役割を得ることができるでしょう。
そして伝わるように行動すること、も大切です。次から「できるようになる」ために行動することは、難しいし勇気がいること。そんなことにチャレンジできたら自分に自信が持てるようになるのではないかな、と思います。いかがでしょうか?
自分が苦手だなと思う環境でも、ありたい自分を見失わすに行動する、そんな芯の強さを少しずつ身につけられると良いのかな、と思います。応援しています。
「仕事を教えてもらえなかった」から見えてくるもの
なかには「仕事を教えてもらえなかった」という人もいるでしょう。
それでは、自分の思う「仕事を教えてくれる/くれない」はどのようにしてもらうことなのか考えて、整理してみましょう。
- マニュアルやチェックシートなどがあること
- 練習・テストがあってから実践、というステップがあること
- できることからどんどんやらせてもらえること
など、最初のステップの方法は、実はその人によっていろいろな希望があるものです。
そして、それはもしかしたら、必ずしも医院が思う『仕事を教える』と一致していないだけかもしれません。
まず自分はどうしてほしいのかを自分で理解することが大切。
そしてそれが叶う職場を探してみたり、職場で相談できるようにしたりすると職場の方々とわかりあえて良いのではないかなと思います。
皆さんの成長は、その医院のために大切なこと。でも臨床現場で患者さんを最優先にしながら教育をするのは簡単なことではありません。だからこそ、話をしてお互いを理解しあって、チームとして動けるようになる必要があるんです。
「短い期間で辞めてしまったな」と思っていたその出来事は、あなたが仕事に何を求めているか、何を大切にしたいのか、それらが見えてくる大切な経験、そしてあなたはその期間に成長していましたね。
あなたが仕事に対して何を大切にしていたか、思いついたことをまとめてみましょう。
例えば、
- 患者さんには誠実に接したい。
- スタッフ同士の関係性は○○がいい。
- 仕事時間は一生懸命頑張りたい!けどプライベート時間も必要!
どうでしょう?あなたがこれからどうしていきたいか、少し見えてきましたか?
「辞めた」のその先を整理してみよう
これからどうしたいか、それは「どんな仕事をしたいか」という仕事内容はもちろん、「どういうところで働きたいか」という人間関係・環境面についての問いでもあります。
「歯科衛生士はもういいや……」と思っている人も、そう思う理由を深く考えられれば「歯科衛生士以外なら何でもよい」という投げやりな結論にならずに済むのではないかなと思います。
そして、これらを整理すると、ただ「辞めてしまった」経験ではなく、「私は辞めたことから○○を学び、今後○○をしていきたいことに気づいた」と語れるような経験になるのではないでしょうか。
自分の中でこのように受け入れられれば、次の就職活動でも「今できること、これからやっていきたいこと」を整理して話すことができ、続かない人と思われる心配はなくなります。
「辞めた」という表面的な事柄にとらわれず、なぜ辞めようと思ったのか、どういうことがあったのかを整理することで、これからどうしたいかのヒントが浮かんできます。
ぜひ自分自身を客観視して、書き出してみてください。
そのとき、自分を責めないで「自分のいちばんの味方」として見るのも一つのコツです。
キャリアのお悩み相談をしたい歯科衛生士さん
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