歯学部生からの相談内容【口腔内の加齢変化にはどういうものがありますか? 】
歯学部生の学習お助けユニット“JYP”のCBTレベル「勉強相談室」Q&A #6 会員限定歯学部生なら避けては通れないCBT。臨床実習を受ける資格を得るためにパスしなくてはいけない試験ですが、コンピューターで行われるテストということもあり、問題の予測はなかなか難しいところ…。そこで、CBTを受験するまでにマスターしておきたい学習範囲のなかから、歯学部生から募集した難問について、勉強お助けユニットJYP(ジュンヤとジュンペイ)がレクチャー! 毎月1問、じっくり教えてもらいます。
【今月の相談内容】
口腔内の加齢変化について
ご質問ありがとうございます。口腔内の加齢変化については様々な範囲から出題されますね。幅広くカバーされた資料はなかなか見つからなかったのではないでしょうか。高齢者に対する歯科医療と併せて、加齢変化についても近年よく聞かれるトピックでありますので、少し踏み込んで一緒に勉強していきましょう。
夏が終わりに近づきいよいよ国家試験が近づいてきたことを感じます。気合いを入れ直して引き続き勉強していきましょう。
歯に関連する加齢変化
まずは、歯についてです。歯冠表面のエナメル質から考えていきましょう。長年の上下の歯の噛み合わせやブラッシングなどによってエナメル質はすり減っていきます。咬合によるすり減りを「咬耗」、歯ブラシなどその他の原因によるすり減りを「摩耗」と言いましたね。すり減った歯は元通りにはなりませんので、加齢変化として咬耗・摩耗がみられるようになります。「加齢によって咬耗・摩耗が生じる」では当たり前過ぎるので、試験などでは聞き方を変えて出題されることがあります。
咬耗によって咬合面の尖っている部分である咬頭が平らに近づくことを「咬頭傾斜角の低下」や「咬頭展開角の増加」と表現することもあります。また、咬耗が生じると上下の歯の接触面積が増加します。このように咬耗について別の表現がされていても落ち着いて対応しましょう。歯がすり減って平らになるのは一歯単位に限ったことではなく、咬合平面も加齢変化で平坦になっていきます。このことをモンソンカーブの曲率低下と表現することもできます。
また、咬合の負担によってエナメル質に亀裂が頻繁にみられるようになり、40代以降では95%以上の歯に細かい亀裂が入っていると言われています。亀裂は象牙質知覚過敏の原因となることもあります。
続いて象牙質についてです。エナメル質と違って象牙質は歯ができた後も歯髄側に向かって象牙質を作り続ける(二次象牙質の形成)ため、加齢とともに象牙質は厚くなっていきます。エナメル質が透明に近いのに対して、象牙質の色が黄色であるため、象牙質が厚くなっていくことで歯冠が黄色味を帯びて変色していきます。また象牙細管の内側にも象牙質を作っていくため、象牙細管も細くなっていきます。このため象牙質の水分量が減少して、歯の弾性が低下すると言われています。
更に内側の歯髄についてみていきましょう。
二次象牙質の形成によって、加齢とともに歯髄腔、根管孔、根管、根尖孔はいずれも狭くなっていきます。その結果、歯内治療における髄腔開拡の際に天蓋除去や根管孔の明示が難しくなったり、髄角が細くなることで髄角部の歯髄を取り残すリスクが上がったりと、治療の難易度が上がります。根管孔が狭くなり歯髄への血流が妨げられることや、一般的な組織の加齢変化を原因として歯髄組織の萎縮・変性が生じます。歯髄組織の萎縮によって生じる網様萎縮や石灰変性の一種である象牙質粒などの沈着物の出現に関しては、病理組織の画像も見てイメージしておくと良いでしょう。
歯を除いた歯周組織の加齢変化
続いて歯から外側に向かって考えていきましょう。歯根象牙質の外側にあるセメント質は加齢と共に厚くなっていきます。特に根尖付近のセメント質が厚くなるのが顕著な分、上に歯が押し出されて(挺出)、咬耗によってすり減った高さを補っていると考えられています。また根尖部のセメント質が厚くなる分、解剖学的根尖孔が生理学的根尖孔から根尖側に離れるように移動します。(解剖学的根尖孔、生理学的根尖孔が分からない人は自分でよく復習してください!)
歯根膜では、加齢変化による歯根膜線維の減少とともに、歯根膜腔は狭くなり歯根膜の厚みも減少します。加齢変化による歯根膜の変化は比較的よく出題されるところです。
歯肉では歯周炎などによる歯周組織の破壊がない状態でも、加齢とともに歯肉退縮が生じます。歯と歯の隣接部の下を埋める歯間乳頭の歯肉が退縮すると下部鼓形空隙が増加して、食片が入りやすくなったり前歯部では審美性などにも影響します。
歯槽骨では、歯肉と同様に加齢変化とともに生理的に歯槽骨の吸収が生じます。歯軸と顎堤は冠状断で「ハ」の字の方向に傾いているため歯槽骨が吸収すると上顎顎堤は縮小方向へ、下顎顎堤は拡大する方向へ変化します。続いて説明する咀嚼筋の筋力低下によって、下顎角部の顎骨もやせて下顎角は鈍角化します。
その他の口腔の加齢変化
その他の口腔の部位について重要なところをまとめて確認しましょう。顎関節では、下顎窩の前方に位置する関節結節が平坦化することにより、下顎頭の運動範囲が大きくなり、下顎窩から脱しやすくなります。言い換えると顎関節が脱臼しやすくなります。また、大開口時に下顎頭が前に移動する際に、下顎頭は実際には関節結節に沿って前下方に移動しますが、加齢変化に伴う関節結節の骨吸収によって下方に移動する度合いが小さくなるため、矢状顆路傾斜角が小さくなります。
唾液腺では唾液腺組織が萎縮・変性して脂肪へと置き換わります(脂肪変性)。そのため、加齢変化では、唾液腺の分泌量が減少します。また、唾液の性質に関しても粘性をもたらすムチンの割合が減少したり、免疫に関わる分泌型IgAなどの量が減少したりします。主に唾液量が減少することを原因として義歯が吸着しにくくなり、加齢変化にともなって義歯の脱離が生じやすくなります。
筋に関して、加齢変化では一般的に筋力が低下します。口輪筋などの口唇周囲の筋が弱まると唾液が口からこぼれやすくなり口角炎のリスクが上がります。咀嚼筋の筋力低下では硬いものが噛みにくくなったりと咬合力の低下が生じます。
感覚に関しては、ややはっきりとしていないところもあるのですが一般的に加齢変化によって口腔の感覚は鈍くなると考えられています。具体的には味覚が低下して味が分かりにくくなったり疼痛閾値が上がって痛みを感じにくくなったりします。臨床経験でも、歯周ポケット診査時など、高齢の方は若い方に比較して痛みを訴えることが少ないように思います。
今月の【加齢変化について】いかがでしたか? うろ覚えのところがあった人はしっかり復習して備えてくださいね! 第7回は来月公開!
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