歯学部生からの相談内容【口腔内から触診できる咀嚼筋って結局のところどれですか?】
歯学部生の学習お助けユニット“JYP”のCBTレベル「勉強相談室」Q&A #3 会員限定歯学部生なら避けては通れないCBT。臨床実習を受ける資格を得るためにパスしなくてはいけない試験ですが、コンピューターで行われるテストということもあり、問題の予測はなかなか難しいところ…。そこで、CBTを受験するまでにマスターしておきたい学習範囲のなかから、歯学部生から募集した難問について、勉強お助けユニットJYP(ジュンヤとジュンペイ)がレクチャー! 毎月1問、じっくり教えてもらいます。
【今月の相談内容】
口腔解剖の基本のキ! 咀嚼筋について広く復習しよう
ご質問ありがとうございます。咀嚼筋は口腔解剖の基本的な事項ですので、メジャーなところはもちろん、細かいことまで聞かれやすいです。質問内容の口腔内から触診できる咀嚼筋についても国家試験で複数回出題されたことがありますね。色々な種類の問題に対応するためには、咀嚼筋について解剖学的な位置関係や機能など幅広く基本的なことを理解している必要があります。この機会に一緒に復習してみましょう。
①咀嚼筋の種類と働き
まず確認ですが、咀嚼筋とは咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4つです。当然ですが4つの名前は始めに必ず覚えましょう。(もしも覚えていない方がいれば、今ここで覚えてから読み進めてください!)また広い意味で咀嚼に関係する筋肉としては、舌骨上筋群、舌骨下筋群、表情筋や頸部の筋があります。
咀嚼筋が下顎骨からどの方向に向かって付着しているのか方向のイメージを持つと作用も理解しやすいです。下顎骨からみて、咬筋は上方向に、側頭筋は上後方に、内側翼突筋は上内方に、外側翼突起筋は前内方に付着しています。
したがって、咬筋が収縮すると下顎が上方へ引き上げられます(挙上)。側頭筋が収縮すると下顎の挙上に加えて、下顎を後方に引く作用もあります。内側翼突筋の両側が収縮すると、下顎が挙上し、片側が収縮すると反対側へ下顎が引かれます。外側翼突筋の両側が収縮すると下顎が前方へ引かれ、片側が収縮すると反対側へ下顎が引かれます。筋肉の作用は収縮ですので向きを考えると理解しやすいですね。
咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋は全て閉口筋ですが、外側翼突筋の下頭は、下顎頭部を前方に牽引させるため開口にも関わります。外側翼突筋は4つの咀嚼筋の中で唯一、閉口と開口の両方の働きがあることを覚えておきましょう。
また外側翼突筋の上頭は閉口時に関節円板が下顎頭により後ろに押されすぎないように位置を前方に引っ張って維持する作用があると言われています。
②咀嚼筋の起始と停止
続いて、咀嚼筋の起始と停止をしっかり覚えましょう。起始、停止を丸暗記ではなく、言葉の意味から理解して覚えていると混乱せず、忘れにくいです。
骨格筋は一般的には筋肉の両端が骨に付いています。体の中心に近く、筋肉の収縮によって動きが小さい方の筋肉の付着部位を「起始」と言い、体の中心から離れた方にあり筋肉の収縮によって大きく動く方の筋肉の付着部位を「停止」と言います。
腕を曲げて力こぶを作る筋肉である上腕二頭筋をイメージしてみると「起始」は体の中心に近い方の肩甲骨で、「停止」は上腕二頭筋の収縮によって動く、体から遠い前腕の骨です。
では咀嚼筋に戻って考えましょう。咀嚼筋は主に下顎を動かして咀嚼を行う筋なので、基本的に、下顎骨での付着部位が咀嚼筋の停止と考えておくと間違えにくいです。停止をそれぞれの咀嚼筋で確認すると、咬筋は下顎枝の外面、側頭筋は筋突起、内側翼突筋は下顎の内面、外側翼突筋の下頭は下顎頭の付け根の下顎頸に付着します。
起始については、咬筋が頰骨弓、側頭筋が側頭窩、内側翼突筋が翼状窩(翼状突起外側板と内側板の間)、外側翼突筋が翼状突起外側板の外側面とまず大まかに覚えると良いと思います。付着部位の名前は、特に翼突窩(内側翼突筋の起始)、翼突筋粗面(内側翼突筋の停止)、翼突筋窩(外側翼突筋の停止)の名前が似ていて紛らわしいので気をつけてください。また付着部位の名前だけではなく、付着部位がある骨の名前もよく覚えておきましょう。
③咀嚼筋の発生と支配神経
咀嚼筋は全て第1咽頭弓(第1鰓弓)から発生します。第1咽頭弓は上顎と下顎を形づくる咽頭弓でしたね。第1咽頭弓から発生する脳神経は三叉神経(Ⅴ)ですので、咀嚼筋の支配神経は全て三叉神経(Ⅴ)による支配です。筋と支配神経は発生学的な由来からリンクしていますので、他の咽頭弓でも一緒に確認すると良いでしょう。
三叉神経は眼神経(Ⅴ1)、上顎神経(Ⅴ2)、下顎神経(Ⅴ3)の3つに分かれますが、感覚神経のみの眼神経(Ⅴ1)、上顎神経(Ⅴ3)と違って、下顎神経(Ⅴ3)は感覚神経の他に咀嚼筋を支配するための運動神経を含んでいます。下顎神経は卵円孔を通って頭蓋を出ましたね。
咀嚼筋を支配する神経は下顎神経から枝を分けており、側頭筋は深側頭神経、咬筋は咬筋神経、内側翼突筋は内側翼突筋神経、外側翼突筋は外側翼突筋神経の支配です。
④咀嚼筋の触診
さて、いよいよ質問内容の咀嚼筋の触診です。まず咀嚼筋のうち、咬筋と側頭筋は口腔外から触診を行うことができます。口腔外からの咬筋や側頭筋の触診は、顎関節症の診査や水平的顎間関係を決める際の参考(Gysiの咬筋触診法やGreenの側頭筋触診法)にも使われることがあります。口腔内からも、それぞれの筋の主に前縁に触れることができます。
内側翼突筋は、口腔外からは触診することができませんが、口腔内から触診することができます。下顎孔伝達麻酔の際の刺入の際は、内側翼突筋の前縁による構造である翼突下顎ひだ(細かい話ですが解剖学の翼突下顎ひだとは違います)と側頭筋が下顎に付着する筋腱膜の前縁である内斜線を触って確認します。
外側翼突筋は、口腔内から触診できるとすれば下顎頭の停止部だと思われますが実際のところは表面に内側翼突筋があり、諸説はありますが触診は難しいようです。外側翼突筋は、口腔外はもちろん口腔内からも触診できない筋と考えて良いでしょう。
執筆/渡部準也 宇梶淳平
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