【講座4】急性歯髄炎/根尖性歯周炎の臨床症状の鑑別は頻出!
“歯科医師国家試験”ラストスパート直前講座 #4 会員限定歯科医師国家試験まであと2ヶ月を切りました。国立大学、私立大学、現役生、既卒生…、どんな立場の受験生も多少なりとは緊張していることでしょう。そこで、在学中から国試勉強会を主催し、予備校の受験対策研究にも協力した渡部先生に、受験直前期の心構えや勉強内容を教えてもらいました。
国家試験直前まで毎週更新していきますので、この連載を読み、受験勉強のラストスパートをかけてください!
著者
渡部準也(わたなべじゅんや)
2021年、東京医科歯科大学歯学部歯学科を卒業し歯科医師免許取得。卒業時には長尾学術奨励賞(首席卒業)を受賞。同大学病院で臨床研修を行ったのち、2022年より同大学大学院へ進学し免疫をテーマに研究を行っている。学部在学中から同級生に対し、CBT/国家試験対策を行うなど、歯学教育に強く関心をもち、時期を同じくして他大学で試験対策研究を行っていた歯科国試塾ブループリント講師陣と意気投合し協力する。
臨床症状から歯内疾患の鑑別を行う問題は
頻出と心得よう!
今回は急性歯髄炎と急性根尖性歯周炎の臨床症状について復習していきます。
臨床症状から歯内疾患の鑑別を行う問題は、長年に渡って国家試験で出題されているだけでなく、114回B11や114回D18など近年の国家試験においても頻出ですので、しっかりと確認していきましょう。
下の表は、急性歯髄炎と急性根尖性歯周炎の臨床症状についてのまとめたものと、まとめから重要なところを空欄にしたものです。解説を読んだのちに、空欄の表が埋められるかどうか、紙に書いて確かめてみましょう。
歯髄炎と根尖性歯周炎の理解
最初に、当たり前のことですが確認です。歯髄炎と根尖性歯周炎の根本的な違いは、歯髄が生きているか(生活)、死んでいるか(失活)です。歯髄炎では歯髄が生活しているため、炎症の主体が歯髄に留まっています。対して、根尖性歯周炎では既に歯髄が失活しており、炎症が根尖の歯根膜組織に進行しています。
歯髄の感覚は一般的に定位が悪く、対して歯根膜の感覚は定位が良いです。したがって、歯髄炎では、原因歯がわかりにくいことがあります。特に急性化膿性歯髄炎で、強い痛みがある場合には患歯が分かりくい(=痛みの定位が悪い)という特徴があります。
対して、根尖性歯周炎では歯髄が失活して歯根膜による感覚受容となるため、歯髄炎と比較して患歯が分かりやすいです。根尖部歯周組織に炎症があるため、打診などの診査でも痛みや違和感により原因歯を特定することができます。歯髄と歯根膜の感覚の違いとして歯髄炎では鋭い痛みとして受容し、歯根膜では鈍い痛みとして感じることも覚えておきましょう。
根尖部歯周組織の炎症は、根尖性歯周炎と全部性の歯髄炎で生じます。全部性歯髄炎では、炎症が歯髄全体に及んでおり、根尖部から歯根膜にも影響が出始めていると考えると良いでしょう。根尖部歯周組織に炎症がある場合、根尖部歯根膜中の神経が鋭敏になり、咬合痛や打診痛といった症状や、歯の挺出を感じるようになります。
単純性(漿液性)と化膿性の理解
最も一般的な、細菌的原因による歯内疾患を考えると、単純性と化膿性の違いは、“刺激(細菌毒素や酸など)”または“細菌自体”のどちらが、疾患の主体である組織に到達しているかの違いと考えることができます。疾患の主体である組織とは、歯髄炎では歯髄、根尖性歯周炎では根尖部歯周組織のことです。
単純性の歯内疾患では、細菌自体ではなく細菌の刺激による炎症であるため、化膿性と比較して炎症も自発痛も軽度であることが多いです。
化膿性の歯内疾患では、細菌感染によって単純性と比べて強い炎症が生じています。炎症に伴って血管が著明に拡張し、硬組織内で圧力が高まることで強い自発痛が生じていることが多いです。血管拡張と関連し、痛みは拍動性で、血行が良くなる夜間の就寝時や温熱刺激時に痛みを生じやすくなります。冷刺激では逆に痛みが緩和されることも覚えておきましょう。
急性単純性歯髄炎と急性化膿性歯髄炎の鑑別
それでは急性単純性歯髄炎と急性化膿性歯髄炎の臨床症状の違いを見ていきましょう。単純性と可能性で臨床症状が重なる部分もありますが、典型的な症状を押さえて鑑別することが大切です。
急性単純性歯髄炎では、初期に冷刺激により牽引痛が生じるのが典型的な症状です。自発痛は間欠的であり、痛みが継続する時間は短いです。歯髄の炎症の初期では神経の感覚が鋭敏になるので歯髄診で閾値の低下がみられることがあります。
急性化膿性歯髄炎では、拍動性や放散性の自発痛が生じるのが典型的です。温熱刺激によって誘発痛が生じ、冷やすと単純性歯髄炎とは逆に症状が緩和されます。痛みが強くなると、歯痛が原因で顔面領域に関連痛を生じることもあります。化膿性歯髄炎の末期では、炎症が強く歯髄の神経が障害をうけて歯髄診の閾値が上昇する場合があります。
急性化膿性根尖性歯周炎のまとめ
最後に、急性化膿性根尖性歯周炎について復習していきます。急性化膿性根尖性歯周炎では、表の他の3つの歯内疾患と違う特徴的な臨床症状が多くあり、試験で問われやすいです。臨床症状の経過も含めてよく理解しておきましょう。
急性化膿性根尖性歯周炎に特徴的な臨床症状
急性化膿性根尖性歯周炎では、細菌感染が歯髄腔や根尖部歯周組織に留まらず顎骨や歯肉へ拡がっていきます。重症の場合はさらに頭頸部に拡大することもあります。表で示した4つの歯内疾患のうちで急性化膿性根尖性歯周炎でのみ生じる臨床症状のうち、所属リンパ節の腫脹、発熱や倦怠感は細菌感染が歯の局所的な免疫応答を超えているために生じると考えられます。
他にも、根尖部歯周組織に強い炎症があり歯槽骨吸収が生じるため、エックス線写真における明瞭な根尖部透過像、歯の動揺が生じます。細菌を貪食した好中球の死骸である膿が生じるために歯肉膿瘍を生じます。
急性化膿性根尖性歯周炎の経過
急性化膿性根尖性歯周炎は、歯根膜期(第1期)、骨内期(第2期)、骨膜下期(第3期)、粘膜下期(第4期)に分けられています。
歯根膜期(第1期)では、炎症はまだ歯根膜に限局しています。そのため、鈍い自発痛や歯の挺出感など歯根膜受容の痛みとなっています。
骨内期(第2期)では、化膿性の炎症が歯から進行して歯槽骨に波及し始めるため、リンパ節の腫脹や発熱、倦怠感が生じることがあります。また歯をさせる骨内に炎症があることで歯の動揺が生じはじめます。
骨膜下期(第3期)では、顎骨の表面を覆う骨膜の下まで化膿性の炎症が波及しています。骨膜の下で内圧が高まっているために、4期の中で最も疼痛が強いのは骨膜下期です。
粘膜下期(第4期)では、膿が硬組織から進行して軟組織に進展し粘膜下に及んでいます。炎症による圧力が軟組織中に逃げることにより、骨膜下期よりも痛みが低減されます。歯肉が腫脹し触診により波動を触知できるようになります。切開による排膿が適応になります。膿瘍がまばらな結合組織を経由して周辺に進展し、顔面膿瘍や蜂窩織炎に進展することがあります。
急性化膿性根尖性歯周炎では上記のように歯髄炎から進行することが基本ですが、慢性化膿性根尖性歯周炎から炎症が急に進展して症状が生じ、急性化膿性根尖性歯周炎となることがあります。これをフェニックス膿瘍と呼びます。国家試験(114回C5)でも出題がありますのであわせて覚えておきましょう。
【今回のまとめ】
急性歯髄炎、急性根尖性歯周炎の臨床症状の特徴的なものを押さえる必要があります。特に急性化膿性根尖性歯周炎は特徴的な症状が多いので、経過も含めて復習しましょう。
執筆協力
歯科国試塾ブループリント
2021年3月創業の新進気鋭の歯科医師国家試験向け予備校。個人個人に合った教え方、無駄なことを教えない徹底した効率主義、SNSによるいつでも質問可能なサポート体制で、進級や多浪生の国試合格を実現している。歯科医師国家試験の他、歯科衛生士/歯科技工士国家試験、歯学部編入試験、大学院入試など幅広いニーズに対応した個別指導を展開する。
2021年3月創業の新進気鋭の歯科医師国家試験向け予備校。個人個人に合った教え方、無駄なことを教えない徹底した効率主義、SNSによるいつでも質問可能なサポート体制で、進級や多浪生の国試合格を実現している。歯科医師国家試験の他、歯科衛生士/歯科技工士国家試験、歯学部編入試験、大学院入試など幅広いニーズに対応した個別指導を展開する。