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歯科医師の使命と、人としての心――東日本大震災の記憶<2> 連載コラム

歯科医師の使命と、人としての心――東日本大震災の記憶<2>

勝村聖子の歯科法医学日誌 #9

皆さんこんにちは。先日、新年のご挨拶をしたと思っていたら、もう3月。晴れ着や袴姿を見かける季節になりましたね。卒業を迎えられた皆さん、おめでとうございます。

そして今月で東日本大震災から丸13年が経ちました。こちらもあっという間だった気がしますが、先日テレビで、当時被災した子どもたちが成長している様子を拝見し、月日の流れを感じました。警察庁は3月8日現在で死者15,900人、行方不明者は未だ2,520人、身元不明のご遺体が53人と発表しています。被災地の皆様にとって、この13年はどんなものだったのでしょうか。

毎日新聞によると、「被害が大きかった岩手、宮城、福島3県の沿岸37市町村のうち、自治体主催の追悼式を3月11日に開催したのは16市町で、半数を割った」そうです。コロナや高齢化なども影響するのでしょうが、追悼のあり方も変化してくるのだと思います。被災建造物の保存・解体についても「教訓として残すべき」と「当時を思い出してつらい」どちらも尊重すべき意見です。

以前、被災地でお話しした女性は、「世代によっても考え方は違う。(行方不明の家族に対して)私は気持ちの整理をつけるために遺体の一部でも見つけたいと思うが、若い子には『そこにこだわっていたら前に進めない。もうやめな』と言われる。それでいつも家族喧嘩になる」とおっしゃっていました。「体験や記憶」「風化」「教訓」「心の負担」皆さんは、どのように考えますか。

震災遺構となっている、下宿定住促進住宅 。 「津波ここまで」の看板がある
震災遺構となっている、下宿定住促進住宅 。 「津波ここまで」の看板がある

さて、今から13年前、私も岩手の遺体安置所にいました。震災直後は岩手県だけで20箇所の遺体安置所が設置され、毎朝宿泊地の盛岡から警察車両で沿岸地域に向かい、遺体の搬入状況を確認しながら遺体安置所に入ります。

これまでご遺体は見慣れてきたつもりでしたが、体育館一面にご遺体が隙間なく並べられた光景には足が竦みました。棺や遺体収納袋も足りず、ご遺体は毛布などに包まれていました。当初派遣された安置所では、ご遺体を洗浄して検査する場所が卓球台で仕切られただけで、指紋を採取する警察官、歯科所見を採る我々歯科医師、行方不明の家族を探す人、ご遺体と無言の対面をするご遺族・・・ これがすべて同じ空間にいたのです。

遺体安置所の入り口
遺体安置所の入り口

白衣を着た私はよく話しかけられました。「こういうとき、最期は苦しむものですか」「これ娘の写真です、本当にこの子だと思いますか」「兄は総入れ歯だったんですけど、ここにいるか分かりますか」。

私の中で法医学は「客観的に検査し所見を得て鑑定すること、感情に流されてはいけない」でした。私は医師でないから最期の様子も分からないし、顔貌だけで身元確認するなんて良くないし、ここにいるご遺体のすべての口腔内を把握してないし…なんて思えばキリがないですが、支えになれればとなるべく会話をするようにしていました。でもこれが正しい対応だったのかは未だに分かりません。

被災地での我々の使命は、ミスなく正確に詳しく口腔内所見を採取し、ご遺体をご家族のもとに返すことです。とはいえ、ご遺族の嗚咽が漏れる遺体安置所で、ご遺体の口を開けて中を覗き込む行為には抵抗を感じました。記録として撮影する写真やエックス線写真も不快に感じるだろうし、なによりご遺族は「もうそっとしておいて、触れないで」と思ったはずです。

歯科医師として使命を果たすだけが専門家なのか。「歯科医師としての思い」「家族・遺族の思い」、ここでもやはり尊重すべき思いはそれぞれで、正論をいうのは簡単たけど、歯科法医学者・歯科医師である前に人として、心の大切さを意識したいと思うようになりました。

遺体安置所内に設置された焼香台
遺体安置所内に設置された焼香台

日常生活の中でも、相手にイラッとすることってよくありますよね(なかったらゴメンなさい!)。でもちょっと冷静になって、相手の立場で考えると納得できることもあります。学生との会話でも「なるほど、そう来るか!」と感心することもあります。これこそが生身の人間同士のコミュニケーションの醍醐味だと信じて、相手に真摯に向き合うこと、一呼吸してから自分の意見を言うことを心がけるようにしている私です。

次回は、こんな環境の中で行った口腔内所見採取の実際についてお話しましょう。それでは次回もよろしくお願いします。

勝村聖子

鶴見大学 准教授

勝村聖子

歯学部を卒業後、東京医科歯科大学大学院を修了し博士号(医学)を取得。細菌学、解剖学に籍を置いたのち、鶴見大学にて歯科法医学の研究に携わる。2011年に東日本大震災で身元確認を行ったことをきっかけに、フジテレビ『監察医 朝顔』の法歯学監修も担当。仕事のお供にドライフルーツやナッツを食べるのが好き。

歯学部を卒業後、東京医科歯科大学大学院を修了し博士号(医学)を取得。細菌学、解剖学に籍を置いたのち、鶴見大学にて歯科法医学の研究に携わる。2011年に東日本大震災で身元確認を行ったことをきっかけに、フジテレビ『監察医 朝顔』の法歯学監修も担当。仕事のお供にドライフルーツやナッツを食べるのが好き。

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