ある日突然、命が失われたら…夏休み前に考えてほしいこと
勝村聖子の歯科法医学日誌 #5 会員限定皆さんこんにちは。毎日暑い日が続きますが、いかがお過ごしですか。
この連載も記念すべき5回目です(拍手)! 5回ぐらいで威張るなというツッコミが飛んできそう(泣)。これまでは私が司法解剖で接した様々なご遺体について話してきましたが、今日は夏本番を前に少し趣向を変えて…
最近、事件や事故、災害など胸が痛い報道が続いていますね。読者の皆さんの中には、ご自身やご実家、親族やご友人が被害に遭われたという方もいることでしょう。まずは被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げるとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
そして特に各地で発生している水害、「ここに○十年も住んでいるけど、こんなの初めて」とインタビューに答える被災者も多いですよね。若い皆さんでも「最近、規模が大きくなっている」と感じているのではないでしょうか。日本だけでなく世界中で異常気象や災害の激甚化が進んでいるように思います。さて、このようなニュースを観ながら「大変だなあ・かわいそう・お気の毒」と他人事に思っていませんか。
私は2011年に発災した東日本大震災で身元確認活動に従事しました。これについてはまた後日お話しするとして。この経験をきっかけに、生や死、生命に関するシンポジウムなどにもご招待いただくようになりました。
そして講演や大学の講義では、聴講者にある問いかけをすることにしています。それは「みなさん、自分の最期を想像してみましょう」というもの。皆さんはどうですか。多くの人が平均寿命を全うし、家族に見守られながら布団で静かに息を引き取る自分を想像するでしょう。誰かに命を奪われたり、事故死する未来など想像しないはずです。
“人間は、生まれた瞬間から死に向かって生きはじめる”
有名な言葉です。死は必ず来て、いつ来てもおかしくない。頭では分かっていても、次の瞬間、自分に起きるとは思っていないですよね。中学生や高校生には、こんな質問をします。「今朝、家族と『おはよう』の挨拶をした? 『行ってきます、いってらっしゃい』は言えた? もしもです。もし自分にとって、家族にとって、それが最後になってしまうとしたら、どうする?」。
私がとても大好きで尊敬していた先輩が、数年前に亡くなりました。病気がわかってちょうど一年での旅立ちでした。印象的だった言葉があります。「病気はすごくショックで怖いけど、でも幸せだなと思えることもある。なぜなら、気持ち的なところも含めて準備や整理をする時間があるから。あの人に会っておきたいとか、これをやっておきたい、とか。これがもし突然来てしまったら、何もできないまま逝くことになる。あなたは、そんな人たちの想いを繋ぐ仕事をしている。ほんとに凄いと思う。誇りをもって、しっかり続けて」。
私の仕事をそんなふうに考え理解してくれているのだと嬉しく思いました。時に「理不尽な死を迎えた人たちを調べていて、幽霊など怖い経験はありませんか」と聞かれますが、残念ながら答えはノー。この理由についても、「その理不尽な死の解明を手伝ってくれる人だと死者も分かるのよ」なんて話したのも、彼女との楽しい思い出です。
そして思い出といえばもう一つ。子供の頃、田舎の高齢者たちが「こんな暑い日が続くのはおかしい。大きな地震でも来るに違いない」と毎年挙って言っていました。あれからもう数十年が経ちますが(笑)、確かにこの異常気象、その日が近づいているように思います。
夏休み、楽しいイベントを色々考えていることでしょう。古臭いけど青春をぜひ満喫してください。でも油断は禁物。「自分に限って」「まさかこんな時に」「これくらいは大丈夫」こんな過信が大きな事態を引き起こすかもしれません。すべてを他人事ではなく自分事に。毎日、一瞬一瞬を大切に過ごしましょう。
ちょっと説教くさくなりましたが、6回目からはまた、死者の想いを繋ぐお仕事についてです。Happy Summer Holidays!
鶴見大学 准教授
勝村聖子
歯学部を卒業後、東京医科歯科大学大学院を修了し博士号(医学)を取得。細菌学、解剖学に籍を置いたのち、鶴見大学にて歯科法医学の研究に携わる。2011年に東日本大震災で身元確認を行ったことをきっかけに、フジテレビ『監察医 朝顔』の法歯学監修も担当。仕事のお供にドライフルーツやナッツを食べるのが好き。
歯学部を卒業後、東京医科歯科大学大学院を修了し博士号(医学)を取得。細菌学、解剖学に籍を置いたのち、鶴見大学にて歯科法医学の研究に携わる。2011年に東日本大震災で身元確認を行ったことをきっかけに、フジテレビ『監察医 朝顔』の法歯学監修も担当。仕事のお供にドライフルーツやナッツを食べるのが好き。
勝村聖子の歯科法医学日誌の記事一覧
- #1 身元不明死体の名前を取り戻す。歯科法医学は「人生最期の歯科医療」
- #2 解剖は、“その人”と対話する時間
- #3 介護放棄、飢餓状態…司法解剖で学んだ悲しい最期
- #4 傷の位置、タイヤ痕、出血の有無。交通事故のご遺体に隠れた事実とは
- #5 ある日突然、命が失われたら…夏休み前に考えてほしいこと
- #6 関東大震災から100年。災害による社会の変化を考える
- #7 被災地へ向かうまで――東日本大震災の記憶<1>
- #8 助け合い、譲り合う…災害時にこそ見えてくる人間のモラル
- #9 歯科医師の使命と、人としての心――東日本大震災の記憶<2>
- #10 遺体安置所は「生」のありがたさも感じる場所――東日本大震災の記憶<3>
- #11 自分は何をすべきだったのか…正解のない問いに向き合う――東日本大震災の記憶<4>
- #12 家族の服装を覚えていますか? 身元根拠に求められるもの――東日本大震災の記憶<5>