日本人は舌掃除に飽きやすい⁉ 歯茎マッサージャー、舌ブラシ、義歯ブラシ・義歯洗浄剤・義歯安定剤【快適ケアグッズ 後編】
みんなでハマろう! オーラルケアグッズ沼 #10歯学部生なら興味がある、歯ブラシや歯磨き粉、フロス、歯間ブラシなどのオーラルケアグッズ。
でも、種類やトレンドについてそんなに詳しく知らないのではないでしょうか。
本連載では、オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長であり、オーラルケアグッズの魅力を知り尽くしている酒向淳さんに、オーラルケアグッズ沼へといざなっていただきます。
実は種類が豊富な歯茎マッサージャー
次に歯茎マッサージャー。見たことない?!という声が聞こえてきそうだが、実は世の中にたくさん存在する。マニュアルだけでなく電動品も多くの選択肢があり、物理的にブルブル振動を与えるタイプ、超音波発生タイプがあり、また光を当てるタイプでは、赤外線やLEDがある。なかにはレーザーとまで、書いてある市販品がある。また、やんわり温かくなるタイプ、温風が出るタイプなどなど、ほとんどが美容用品だ。この手の商品あるあるなのだが、誕生と消滅を繰り返している。ただ、口に入れる部分は、シリコン製が多いと思う。
ちなみにマニュアルタイプでは歯科用もあって、代表的な製品は三宝製薬のガムテックだろう。また今回は歯茎マッサージャーとしたが、実際には頬をマッサージする商品の方が、すそ野が広く種類も豊富だ。要は、小顔化やほうれい線の皺を目立たなくする目的の道具だ。手で内側から引っ張るタイプ、噛んでペコペコする小型の物から、大きなブレードがついていて、鍛えるのか?と思うほどの大型タイプもある。口の外から使用するタイプも含めれば、驚くほどの種類が存在する。
実際、巷のエステ店では、手袋をつけたエステティシャンが口の中に指を入れて、ギューギューと頬を引っ張る施術は、もう目新しいサービスではないのだが、人々のこの分野への欲求は消えることはないし、日本だけでなく世界のどの国にいっても、呆れるほど、こういった道具が存在し「家に一個あると安心」と感じる人が、世の中には一定数いることを指摘しておこうと思う。
日本では低空飛行の舌ブラシ
次に舌ブラシ。20年前ぐらいから巷のドラックストアにも1種類は必ず置いてある道具だ。日本ではワンタフトブラシより市民権を得るのが早かった。ただ、長期低め安定。理由は国民が買い替えないから。日本人は歯ブラシを平均3ヶ月でかろうじて交換しているが、舌ブラシは数年単位連続使用していて、統計も取れないほどだ。筆者からすると「オッエ~」と感じるほど汚い話だが、「口腔内で使用する道具の汚れ」にはびっくりするほど無頓着なのが、令和日本人の姿だ。
そんな舌ブラシだが、世界では舌の掃除行為の歴史は古く、紀元前500年頃からと言われる。最初は歯ブラシと完全に分離しておらず、舌専用清掃道具として記録が残っているのは、インドのアーユルベーダのお坊さんに関する書物。神様に会う前に手を洗い、口をすすぎ、舌を清める作法に銅板を使用した記録が残っていて、これが舌専用道具の起源の一つとして伝えられている。そしてこの作法がインドから中国へ、そしてヨーロッパに渡って、現代の舌ブラシとして進化したと言われている。
他方、日本では浮世絵に江戸遊郭の遊女が房楊枝の裏側(房の付いてない持ち手の部分)で舌を掃除したり、鯨のひげでできた舌専用の道具を使用している姿が残っている。文化としては日本人も古くから舌掃除をしてきたわけだが、一部の熱心な層を除き、なぜか国民全体には広がっていかないのだ。近代の製品歴史を振り返っても、1992年に今はなきサンスターのブランド、グリーンアンドスコールとして、ステンレス製のタンクリーナー新発売とネット情報もあるが、筆者は売っていたところは見たことがない。
ハンズやロフトといった専門店には、マイナー製造元のステンレス製の舌ブラシが古くから陳列してあったが、全国津々浦々ドラックストアのオーラルケアコーナーに、ブラシタイプの舌ブラシを置いたのは、エビスが最初だと思う。そして今はライオンのNONIOが加わり、残りは店舗ごとにマイナー系がちらほら置いてあるだけだ。ホームセンターもほぼ同じだが、もう少しバラエティーが増える。そしてどこの売り場も、どのメーカー製品も、売り出し強化期間は陳列棚の幅をとっているが、徐々に縮小していつもの1~2種に戻る。なぜか日本人は舌掃除にすぐに飽きてしまうのだ。
また、医療機関でも同様で、口臭治療に強い歯科医院以外では、舌ブラシ自体販売していないのが現状だ。さて、形状の分類としては大まかに、シリコンタイプ、ブラシタイプ、ヘラタイプの3種類に分類される。ただ、複数の形状が組み合わさっていたり、ブラシでもマイクロファイバーになっていて、ガーゼのような形状をしていたりする商品も存在するので、単純には分けられないこともある。基本的にはシリコンは一番やさしい感触だと言われているが、嘔吐反射防止のために、ハンドル部分も柔らかい製品が多い。これは舌を押し込まないようにするための設計だ。最後にお作法だが、筆者はできるだけ研磨剤の影響を避けるため、一番初めに、つまり歯磨き行為の前に、舌掃除をするよう推奨している。
気軽に買えなくなっている義歯ブラシ・義歯洗浄剤・義歯安定剤
最後に義歯ブラシと義歯洗浄剤、それに義歯安定剤をまとめていこう。
まず義歯ブラシ。地域によってばらつきがあるものの、義歯ブラシを置いていないドラックストアが近年増えた。そう、もう気軽に買えないのだ。そもそも歯ブラシで代用する人が多かったうえに、高齢者の歯が残って、大きな入れ歯を使用する人が減り、専用の大きなブラシは使いにくいためだ。しかも品質を気にかける層もなく、頻繁に交換の必要性もないので、売れなければお店は商品を置かなくなる。だから現状はライオン、サンスター、グラクソスミスクライン・アース製薬連合が各二種ずつのみのラインナップしかない。花王と小林製薬にいたっては取り扱いなしだ。あとはマイナー商品が100均ショップやネットにちらほら存在するだけだ。各商品形状や特徴は、ここで記述するほどの内容はないので割愛するが、手の握力が無くなってくると、濡れた状態で使うため滑って苦労する人が一定数いるので、高齢者には太い柄のブラシを筆者は推奨している。
次に義歯洗浄剤だが、ライオン、サンスター、花王も商品としては存在するものの、取り扱いは少なく、やはりドラックストアに置いてないことも多い。だから歯科用はまだ規模の小さい会社製品が残ってはいるが、一般店で扱われる商品は、現状ほぼ2社に集約されていて、グラクソスミスクライン・アース製薬連合のポリデントと、小林製薬のタフデント/パーシャルデントだ。最近はマウスピース用が派生誕生しているものの、義歯用はこの2種類が香りや追加効能などで枝分かれするだけで、ほぼ寡占市場だ。
機能面については、古くは酵素入りをポリデントは売りにしていたが、今はタフデントも酵素入りになっていて、差別化にはもうなっていない。そして各社の主成分は、次亜塩素酸剤、過酸化物、酵素剤、酵素添加過酸化物、銀系無機抗菌剤、界面活性剤、固定化抗菌剤、二酸化チタン、生薬および酸だ。
ここまでくると、もう筆者にも、どういう組み合わせが良いのかわからないが、素材にもよると思うので、この先は専門書に任せようと思う。ただ、サイズが小さくなったとはいえ、入れ歯を使っている高齢者は、まだまだ多数いるし、昭和時代は水洗いだけで済ます人が多かったが、口腔衛生意識向上に伴い、最近は洗浄剤を使用する人が増え、平成/令和ではコンビニ・スーパーでも見かけるようになった。
最後に義歯安定剤だが、市場は洗浄剤とまったく同じ2社でほぼ寡占されている。つまりグラクソスミスクライン・アース製薬連合のポリグリップと、小林製薬のタフグリップだ。もともと、この商品群は製薬会社が強く、コーム・エーザイ連合のシーボンドと塩野義製薬のクッションコレクトも一定のシェアを持っていたが、両者とも令和に入って、生産中止になっている。だから今までは、形状分類としてはクリーム、クッション、パウダー、シートの4種類だったが、現状一部は個人輸入するしか手に入らなくなっているのだ。そして最近はコンビニ・スーパーで販売しているのをまず見かけないはずだ。理由は、販売数量の減少と、他のオーラルケア商品と違い、管理医療機器だからだ。販売には一定の条件を満たす責任者と、売り場ごとの許可書が必要で、販売ハードルが上がるためだ。
最後になるが、これら義歯関連商品の消滅・生産中止理由は各社さまざまだが、たとえばシーボンドに関しては、本家のコームは製造を続けていることから、日本人口減少に伴う問題が影を落としているのではないかと筆者は考えている。
さてさて、マイナー商品にスポットを当ててきたが、いかがだったろう?
ちなみに、今回紹介した商品製造元の、グラクソスミスクライン・アース製薬連合は、本家からのスピンオフに伴い、会社名もHaleon(ヘイリオン)に変わる予定だ。また、J&Jも同じくスピンオフで、日本法人はJNTLコンシューマーヘルスに会社名が変更になった。だから、いつまでも「じょんじょんの、リステリンとリーチ」などと言っていると、おじさんおばさん扱いされてしまうので、注意が必要だ。
酒向淳
オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長。2001年にドイツに移住・転職した際、ドイツの「メガデント」本店の「自分に合った道具でより効果的にケアを行って健康的に生きる」というコンセプトに共感。「メガデント」本店での研修を経て、2009年に銀座店を開業した。店頭にはヨーロッパ製品を中心に1000種類を超えるアイテムが並び、そのすべてを試している。
「メガデント銀座店」
〒104-0061 東京都中央区銀座1-14-10 松楠ビル1F
http://www.megadent.co.jp/index.html
オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長。2001年にドイツに移住・転職した際、ドイツの「メガデント」本店の「自分に合った道具でより効果的にケアを行って健康的に生きる」というコンセプトに共感。「メガデント」本店での研修を経て、2009年に銀座店を開業した。店頭にはヨーロッパ製品を中心に1000種類を超えるアイテムが並び、そのすべてを試している。
「メガデント銀座店」
〒104-0061 東京都中央区銀座1-14-10 松楠ビル1F
http://www.megadent.co.jp/index.html
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