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「命に直結」する分野だという覚悟を――歯科麻酔科 小林紗矢香先生 キャリア

「命に直結」する分野だという覚悟を――歯科麻酔科 小林紗矢香先生

歯学部生がスペシャリストに聞く! 各専門分野のシゴト事典 #9

補綴科、矯正科、保存科、口腔外科、小児歯科、インプラント科…ひとくちに“歯科”といっても、その中にある専門分野はたくさん。
将来は何かに特化した歯科医師になりたいけれど、どの分野を選ぶべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで本特集では、さまざまな専門分野で活躍する“スペシャリスト”に歯学部生エディターズがインタビュー!
これまでどんなキャリアを歩んできたのか、その分野を究めるためにはどうすればいいのか、たっぷりお話を聞きました。

第9回のスペシャリストは、フリーランス歯科麻酔医の先生。
先生がオペの前に必ず行っていることとは?

お話を聞かせてくれたのは…

小林紗矢香先生

ひまわり歯科クリニック副院長/フリーランス

小林紗矢香先生

2013年、明海大学歯学部を卒業。2018年、東京歯科大学歯学研究科(歯科麻酔学専攻)修了。2019年、獨協医科大学埼玉医療センター所属。2023年にフリーランスへ。日本歯科麻酔学会専門医・認定医。日本障害者歯科学会認定医。日本抗加齢医学会専門医。

2013年、明海大学歯学部を卒業。2018年、東京歯科大学歯学研究科(歯科麻酔学専攻)修了。2019年、獨協医科大学埼玉医療センター所属。2023年にフリーランスへ。日本歯科麻酔学会専門医・認定医。日本障害者歯科学会認定医。日本抗加齢医学会専門医。

インタビューしたのは…

SAEさん

昭和大学5年生

SAEさん

歯学部生エディターズ。インプラントや美容系の治療に興味がある。絵を描くことが好き。

歯学部生エディターズ。インプラントや美容系の治療に興味がある。絵を描くことが好き。

患者さんの気持ちを知り、尊重することが第一

SAE: 小林先生とは以前セミナーでお会いしたことがあって、じっくりお話を伺いたいと思っていたので今日はうれしいです!

小林: お久しぶりです! 私もSAEさんがインタビュアーだと聞いてびっくりしました。今日はよろしくお願いします!

SAE: 小林先生は現在フリーランスの歯科麻酔医としてご活躍されていますが、毎日のお仕事はどのようなスケジュールで進められていますか?

小林: 現在はさまざまな歯科医院での出張麻酔を中心に、週2回は母が経営するひまわり歯科クリニックで一般歯科治療も行っています。出張麻酔の日はオペの30分から1時間前には医院に到着して、患者さんと医療面接。その後オペに入り、終わったら患者さんの回復を見届けて、次の場所へ向かうという流れです。

SAE: 医療面接の時間を長めに確保されているんですね。

小林: もちろん事前にその医院の先生も問診をされていることが多いですが、既往歴や飲んでいる薬などの新しい情報が出てくることもあるので、しっかりお話を聞くようにしています。その場で麻酔の方針や使う薬を変えることもありますよ。

SAE: その場で! 麻酔の方法自体を変えるということですか?

小林: はい。笑気麻酔、静脈内鎮静、全身麻酔とさまざまな方法がありますが、患者さんにお会いすると「静脈内鎮静の予定だったけれど、この方の場合は麻酔方針を変えた方がいいかも」とわかることもあるんです。基本は事前情報からあらかじめ方針を立てておきますが、やはりベストな選択をするためには対面で直接お話を聞く必要があります。

SAE: すばやい判断力が求められそうです。オペの間はどのようなことをされているんですか?

小林: オペ中はバイタルサインをリラックスした状態で保つ必要がありますし、歯科治療は注水下で行うためむせやすく、麻酔を入れすぎると誤嚥性肺炎につながることもあるので、麻酔の深さを調整しなければいけません。ですので患者さんの状態やバイタルのモニター、治療の進捗など多方面を確認して、常に適切な対応を考えています。

SAE: 緊張感があります…。歯科麻酔を受ける患者さんはどのような方が多いですか?

小林: 症例としてはインプラント手術や口腔外科手術が多いです。患者さんは歯科恐怖症の方や嘔吐反射のある方が多いですが、最近は疾患のある方や高齢の方も大幅に増えてきました。そういった患者さんにとって歯科治療は精神的にも身体的にも大きな負担になるので、その方に合わせた配慮をしています。

SAE: 患者さんそれぞれの背景を理解する必要があるんですね。

小林: そうです。口を開けているのがつらい、治療の音が怖い、器具が口に入ると吐き気がしてしまう…一人ひとりにさまざまな事情があります。そんな患者さんが抱えている恐怖と不安を取り払い、治療を受けられるようにすることが私たち歯科医師の大事な役割。特に処置前は緊張がピークに達して、血圧が上がってしまうこともあるので、これから何をするのかわかりやすく伝えたり、都度声を掛けたりして、少しでも気持ちが落ち着くようにしています。

SAE: メンタル面のケアも大きな役割になるんですね。以前、先生がSNSで香りが選べる笑気麻酔をご紹介されていて、そんな工夫もされているんだと驚きました。

小林: お子さんの場合、特に全身麻酔のときは薬の匂いがいやだという子もいるんですよね。少しでも多く薬を吸ってほしいので、「チョコレートの匂いがするよ、吸ってみて」と促したりしています。大きな病院では20種類ほどの香りを用意していることもあり、「どれがいい?」と患者さんに選んでもらうこともありますよ。

SAE: 好きな香りが選べると、治療前でも楽しい気持ちになりそうです。

小林: そうですよね。歯科医師の仕事は、とにかく人に寄り添うことが大事。その方の気持ちを知って、尊重し、自分に何ができるか考えることを第一にしています。

SAE: 私も、患者さんを大切にできる歯科医師を目指します!

医科歯科を超えた知識を常に得ていく

SAE: 先生は学生時代から歯科麻酔を志していたんですか?

小林: いえ、学生時代は考えもしていませんでした。この道に進んだきっかけは、臨床研修医時代に歯科麻酔の先生が患者さんの緊急対応をしているのを見たこと。私が通っていた大学には当時歯科麻酔科がなかったので、「歯科にもこんな分野があるんだ!」と衝撃を受けたんです。研修後は大学院に進み、医局で経験を積んでいきました。

SAE: 歯科麻酔は知識の幅が必要になりそうですが、どのように学ばれていましたか?

小林: 大学院のプログラムももちろんありましたが、症例から学ぶことが多かったです。所属していた医局は症例が非常に多かったので、半年ほどで体系的なことは習得できました。自分の症例が終わったら先輩や同級生の診療室に行って積極的にお手伝いや見学をして、一つでも多くの症例に触れるようにしていました。

SAE: 他の方の症例まで! すごい。

小林: それくらい強い気持ちが求められるということです。麻酔学は医科や歯科の枠を越えた共通の学問ですから、歯科医師国家試験では触れない範囲に及びますし、医師の先生と同じ知識も身につけなければいけません。そして麻酔や薬のトレンドはどんどん変化していくので、常に情報をアップデートすることも必須。私も医局に入って4~5年は、一定のレベルに達するまでとても大変でした。

SAE: すさまじい努力をされていたんですね…。その後、フリーランスになるまでの経緯を教えていただけますか?

小林: 大学院修了後は医科大学で、4年間の医科麻酔研修をしました。開腹手術や整形外科の手術など、さまざまなケースを学べてすごく勉強になりました。そして今度は、約10年間医局で培ってきたことを地域医療に還元したいと思うようになり、退局を決意したんです。

SAE: フリーランスになることに不安はありませんでしたか?

小林: もちろんありました。1年たったいまでも手探りの部分はありますが、少しずつ自分なりの方法を見つけている感じです。

SAE: かっこいいです! SNSで飛行機移動されているのを見ましたが、全国の歯科医院でお仕事されているんですね。

小林:: 最近は九州など遠方の歯科医院からご依頼をいただくことも増えています。いろんな医院様からお仕事をいただけることは決して当たり前ではないので、本当にありがたい限りです。

SAE: 紹介でのご依頼が多いですか?

小林: 紹介もありますし、勉強会やセミナーでお会いした先生からお話をいただくこともあります。フリーランスは「大学のつながりでしか仕事を得られないのでは」と思われがちですが、一つひとつのご縁をいかに大切にするかで変わるものだと思います。

SAE: ご縁を大切にすることでつながりが広がっていくんですね。

小林先生の愛用アイテム

麻酔を行う際に欠かせない薬剤と器材の一部。 後方は笑気吸入鎮静器。
麻酔を行う際に欠かせない薬剤と器材の一部。 後方は笑気吸入鎮静器。

すべての分野はつながっていると感じる

SAE: 週2回は一般歯科治療をしていると伺いましたが、歯科麻酔をする上でも一般歯科の経験は必要になりますか?

小林: 必須だと思います! 私も医局時代は麻酔に集中していましたが、やはり歯科麻酔医である前に「歯科医師」なんですよね。ある程度治療の手順を理解していないと麻酔をかけるのも難しいし、一般歯科は本当に大事だと感じています。

SAE: まずは歯科医師としての基本を学ばなければいけない…。

小林: そうです。また一般歯科を行うことで「通常はここを押さえるけれど、嘔吐反射の患者さんには避けた方がいい」のように、歯科麻酔時の対応を詳細に考える力もつきました。それから、歯科麻酔ではなんらかの事情を抱えた患者さんと接することが多いので、一般歯科の患者さんがこちらに身をゆだねて治療を受けてくださることがいかにありがたいのかを実感する機会にもなります。

SAE: 一般歯科と歯科麻酔、相互に理解を深められるんですね。そのほかにも先生は最近、美容やアンチエイジング系の治療に取り組まれていますよね。

小林: そうなんです。先日、日本抗加齢医学会専門医の資格を取得しました!

SAE: わあ! おめでとうございます!

小林: ありがとうございます! 高齢の方が増えている現代において、「アンチエイジング」は大きなテーマ。そのニーズに応えるためにも、アンチエイジング歯科に力を入れていきたいんです。

SAE: 具体的にはどのような治療ですか?

小林: 予防を目的とした点滴療法や咬筋ボツリヌス治療などさまざまです。たとえばコロナ禍で在宅勤務になり、人に会えないストレスから食いしばりが強くなってしまう方が増えましたよね。そういった方に咬筋ボツリヌス治療を行い、強すぎる咬合力を緩めてあげるとその緊張やストレスが緩和されて、全身の状態も変わってきたりします。

SAE: すごい! 美容効果だけではないんですね。

小林: 歯科における美容は、機能改善が基本なんです。機能が改善すると、それを保つために予防を頑張るようになって、結果的にアンチエイジングになるというわけです。

SAE: 治療によって良いサイクルができるんですね。アンチエイジング歯科には麻酔のご経験も活かされていますか?

小林: はい、すべての分野はつながっているんだと実感します。たとえば現在はひまわり歯科クリニックで点滴療法も行っていますが、点滴療法では全身状態から「この方はいまこういう状態だろう」と判断します。その際、歯科麻酔の方針を立てる上で健康診断の結果を見ていた経験が活かされています。

SAE: そこがつながるんですね。面白い!

小林: 私も、歯科麻酔の経験からここまで広く実践できるようになるとは思っていませんでした。麻酔学という一つの学問が、見聞を広げさせてくれたんだなと感じています。

そのときに一番やりたいことが将来“正解”だと思えるように

小林: SAEさんは、卒業後の進路は決めていますか?

SAE: まだ迷っていて…。もう方向性を固めている友達もいるので焦ります。先生は臨床研修中に道を決められましたが、研修医になると考え方は変わりますか?

小林: 現場では「教科書で習ったことが通用しない」という場面にも遭遇するので、自然と考えは変わっていくはず。いろいろと経験してから決めるのもいいと思いますよ。

SAE: 専門分野を身につけようと思ったら、早めに動くべきでしょうか?

小林: 最初から「これ!」と決めているなら早いに越したことはないと思うけれど、研修医として働くのと医局員として働くのには大きな違いがあるので、じっくり考えて心を決めてからでもいいかもしれませんね。選択肢は多く持って、将来どんな歯科医師になりたいかという方針に沿って考えてみてください。

SAE: そう言っていただけて安心しました。ただ将来を考えると、女性としてのキャリア選択も悩ましいところで…。

小林: 難しいですよね! 私も、これまでの選択が正解だったのかはわからないけれど…「歯科麻酔」を選択していなければ、いまの自分はないと思っているんです。ありがたいことに多くのお仕事をさせてもらっていて、いまの自分でよかったって。だから、そのときに一番やりたいことを選択するのがいいのではと思うんです。タイミングもあるから難しいけれど、自分の気持ちを大切にすればそれが正解になっていくのではないでしょうか。

SAE: 「いまの自分でよかった」、理想的な言葉です。私もそう思えるように頑張ります! では最後に、歯科麻酔を志す学生にアドバイスをお願いします。

小林: 歯科麻酔は、麻酔をかけることで患者さんを“正常ではない状態”にするので、命に直結する分野です。だからこそ医局での勉強は大変だし、指導も厳しい。そのため歯科麻酔の道に進むなら、「歯科麻酔を通じてこんなことがしたい、こんな歯科医師になりたい」という強い意志が必要です。私も医局時代は苦労をしましたが、この仕事にやりがいを感じています。やりたいことを実現するために、ぜひ覚悟をもって臨んでください!

SAE: 身が引き締まりました。今日はありがとうございました!

インタビューを終えて

お話を聞いてわかった! 歯科麻酔の仕事は…

医科も含めた広い知識が求められる

患者さん一人ひとりへの配慮、メンタルケアが大切

疾患のある方や高齢の方のニーズも増えている

歯科麻酔の先生がいらっしゃなければ大きな手術を行うことはできず、お話を伺ってその存在の大切さを改めて実感しました。また少子高齢化が進むなかで今後も麻酔を用いた処置の需要が増していく、麻酔の経験を生かして他分野への応用もできるなど、歯科麻酔の面白さをさらに知ることができました!

「歯科麻酔の可能性は無限。こんなにやりがいのある仕事ができてうれしく思っています」と小林先生。大変な時期を経てきたからこそ、得られる喜びも大きいんですね。
小林先生のインタビュー記事は、2024年5月に発行した雑誌版BRUSHでも掲載中です!

撮影/泉山美代子

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