江戸時代から人々はあまり興味がない? ハミガキの歴史【前編】
みんなでハマろう! オーラルケアグッズ沼 #3 会員限定歯学部生なら興味がある、歯ブラシや歯磨き粉、フロス、歯間ブラシなどのオーラルケアグッズ。
でも、種類やトレンドについてそんなに詳しく知らないのではないでしょうか。
本連載では、オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長であり、オーラルケアグッズの魅力を知り尽くしている酒向淳さんに、オーラルケアグッズ沼へといざなっていただきます。
酒向淳
オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長。2001年にドイツに移住・転職した際、ドイツの「メガデント」本店の「自分に合った道具でより効果的にケアを行って健康的に生きる」というコンセプトに共感。「メガデント」本店での研修を経て、2009年に銀座店を開業した。店頭にはヨーロッパ製品を中心に1000種類を超えるアイテムが並び、そのすべてを試している。
「メガデント銀座店」
〒104-0061 東京都中央区銀座1-14-10 松楠ビル1F
http://www.megadent.co.jp/index.html
オーラルケアグッズ専門店「メガデント銀座店」の店長。2001年にドイツに移住・転職した際、ドイツの「メガデント」本店の「自分に合った道具でより効果的にケアを行って健康的に生きる」というコンセプトに共感。「メガデント」本店での研修を経て、2009年に銀座店を開業した。店頭にはヨーロッパ製品を中心に1000種類を超えるアイテムが並び、そのすべてを試している。
「メガデント銀座店」
〒104-0061 東京都中央区銀座1-14-10 松楠ビル1F
http://www.megadent.co.jp/index.html
ハミガキ沼にようこそ
前回は歯ブラシだったから、今回はハミガキについて語っていこうと思う。ハミガキとは、いわゆる「歯磨き剤」のことだ。ベトベトして気持ち悪そうなどと思わず、思いっきりハミガキ沼にジャンプして欲しい。
ハミガキはハミガキコ?
さて、ハミガキは初期の製品が粉だったことから「歯磨き粉」とも呼ばれるが、物性にかかわらず正式名称は歯磨剤である。
歴史的には、動物の毛や骨を使用する古来の歯ブラシは「気持ち悪い」と忌避する人もいた。歯木や楊枝の時代が長かった歯ブラシの進化過程に比べると、ハミガキはより古くから進化しており、種類も多く、世界中でレシピの記録も残っている。
口腔衛生というよりも化粧品の一つとして、口臭予防やホワイトニング目的で、上流階級だけでなく庶民にも親しまれていたようだ。
そして日本においては、江戸時代には歯みがき粉売りがたくさんいて売り歩いていたそうだ。そして江戸庶民は房楊枝との併用はもちろんだが、指で粉を直接こすりつけてもしていた。いまでいう、エチケットスプレーに近い感覚で使用していたのかもしれない。
ハミガキの薬機法改正
近年ハミガキで大きな変化があったのは、やはり2017年の薬機法改正だろう。
昭和から長い間、国内で発売できるフッ化物濃度は1000ppmまでだったが、長い議論の末、この年ISO基準に準じて1500ppmまで引き上げられた。ただ厚生労働省は、6歳未満は使用しないよう通達を出し、巷では「0歳から1歳までは使用しない」、「2歳から5歳までが500ppm」、「6歳から14歳までが1000ppm」、「15歳以上が1500ppm」と使い分けがようやく始まった。
その後2023年に4学会推奨で、「歯が生えてからの0歳から2歳が1000ppmで、極少量を使用し、余った分はティシュでふき取る」。「3歳から5歳が1000ppmだけど量多め」、「6歳以上は1500ppmをたっぷり使用する」と考え方が変わってきている。
さらには根面う蝕がある人には一気に濃度が上がって5000ppmが推奨されている。しかしこの濃度は日本での市販は、まだ許可されていない。
ただ、フッ化物効果の増強剤添加タイプがすでに販売されていて、この薬剤は3倍強化なので、部分的ではあるものの4350ppmの効果があるといわれている商品も存在する。
そしてインプラントが口の中にあっても、フッ化物配合のハミガキを使用するよう明言されていて、巷に一部はびこる、「インプラントを傷めない」などと謳って、ただ配合材料が減らしてあるだけにもかかわらず、高価格設定のフッ化物無配合インプラント用ハミガキの乱売に釘を差しているかたちだ。
江戸時代から変わらない庶民意識
では、これらについて一般の人々はどう思っているのだろうか? 答えは「気にしていない」である。
「歯磨き粉」や「フッ素入り」という表記は、間違った表現なのは医療従事者であれば知っているだろうが、それらを聞いても、巷の人達は疑問を持つにいたらず、そもそも「興味はない」。
法改正後から、表面にでかでかと「1450高濃度‼」と書いてある商品も存在するが、筆者は意味がないと考えている。
人々の興味がある点は2つだけ。「白くなる」と「口臭を防ぐ」で、ある意味、江戸時代から変わっていない。その他の文言は眼中になく、見ても心に響いていないと思われる。
お店でもハミガキを紹介してくれと言われて「今は何を使っていますか?」と筆者が聞いて、ブランドを答えられる人はほとんどいない。「ドラックストアで買った」「衛生士さんのお勧めで買った」にとどまることがほとんどである。
ハミガキの近代史
さて製品ごとの売り上げの順位を細かく上げることは難しいので、まず大局を簡単に。
日本でのハミガキランキングといえば、長らく一位をキープしていたサンスター「GUM」が近年首位を陥落し、代わりに「シュミテクト」が急激に伸びている。
順位交代の理由はさだかではないが、グラクソスミスクラインが日本でのパートナーを小林製薬からアース製薬に乗り換えてから、徐々に頭角を現してきた感じだ。
ライオン「NONIO」にしろ、最近元気がよいオーラルケア商品は「語呂合わせ」名称なのである。これらの理由について筆者は、日本人は痛いときは別として、普段のハミガキ選びを「こだわっていない」ため、ネーミングやCM効果による、雰囲気で購入に至っているからではないかと分析している。
後編へ続く…。
イラスト・ハルペイ
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