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「歯科があってよかった」と思ってもらうために――口腔外科 別所央城先生 キャリア

「歯科があってよかった」と思ってもらうために――口腔外科 別所央城先生

歯学部生がスペシャリストに聞く! 各専門分野のシゴト事典 #2

補綴科、矯正科、保存科、口腔外科、小児歯科、インプラント科…ひとくちに“歯科”といっても、その中にある専門分野はたくさん。
将来は何かに特化した歯科医師になりたいけれど、どの分野を選ぶべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで9~10月特集では、さまざまな専門分野で活躍する“スペシャリスト”に歯学部生エディターズがインタビュー!
これまでどんなキャリアを歩んできたのか、その分野を究めるためにはどうすればいいのか、たっぷりお話を聞きました。

第2回のスペシャリストは、東京医療センター 歯科口腔外科科長の別所央城先生。
総合病院の中で、歯科はどんな役割を担っているのでしょうか?

他分野の先生へのインタビューはこちら

お話を聞かせてくれたのは…

別所央城先生

東京医療センター 歯科口腔外科科長

別所央城先生

2002年、東京歯科大学卒業。東京歯科大学大学院を経て、放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院にて口腔がんの治療に携わる。その後、東京歯科大学で講師に就き、医局長などを経て2019年に国立病院機構 東京医療センター歯科口腔外科へ異動。2020年より科長を務める。日本口腔外科学会認定専門医・指導医、日本がん治療認定医機構 がん治療協会医、日本口腔科学会認定医・指導医。

2002年、東京歯科大学卒業。東京歯科大学大学院を経て、放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院にて口腔がんの治療に携わる。その後、東京歯科大学で講師に就き、医局長などを経て2019年に国立病院機構 東京医療センター歯科口腔外科へ異動。2020年より科長を務める。日本口腔外科学会認定専門医・指導医、日本がん治療認定医機構 がん治療協会医、日本口腔科学会認定医・指導医。

インタビューしたのは…

ENAさん

日本大学松戸 3年生

ENAさん

BRUSH歯学部生エディターズ。難度の高い治療に挑戦してみたいという想いから、口腔外科に興味を持つ。将来の目標は、国際的に活躍する歯科医師。

BRUSH歯学部生エディターズ。難度の高い治療に挑戦してみたいという想いから、口腔外科に興味を持つ。将来の目標は、国際的に活躍する歯科医師。

若手時代の“記憶”が、今役立っている

ENA: 口腔外科に興味があるのですが、まだ学校では学んでいないので、今日はとても楽しみにしてきました! 早速ですが、先生は普段どんな治療を担当されていますか?

別所: まずは、口腔がんや顎変形症、骨折、開業医の先生方から依頼された埋伏智歯抜歯などの口腔外科全般。それから、病院で手術を受けられる方の口腔機能管理も行っています。

ENA: 病院内で口腔に関することはすべて担われているんですね。口腔外科がほかの歯科分野と大きく違う点は何なのでしょうか?

別所: すべて保険治療で対応していることです。ほかの分野だと自費治療という選択肢もありますが、口腔外科だとほとんどないんですよ。インプラントは口腔外科の技術や知識も必要となりますが、開業医の先生たちが力を入れているので、ここではやっていなくて。だから一般的な歯の治療に比べると、より「病気を治す」という印象が強いかもしれませんね。

ENA: 「病気を治す」…。そう考えると、さらに身が引き締まります。手術をする際も緊張感が高そうですね。

別所: そうですね。歯科や医科のどの分野にもいえますが、絶対に失敗は許されません。だから何度も行っている手術だとしても、必ず前もって勉強するようにしています。大事な脈管や神経のある場所を復習したりね。

ENA: 慣れていることでも油断は禁物なんですね。緊急オペなどの場合は予習できないこともありそうですが…。

別所: はい。そういったときはその場で判断しなければいけないので、普段からしっかり勉強しておく必要があります。よくあるのは、抜歯した歯が上顎洞や隙などに落ちてしまって運ばれてきた方、喉の奥に血がたまって緊急気管切開になった方と、いろんなケースにも対応してきました。どんな患者さんが来るかわからないのが口腔外科なので、常に知識をつけておかないと。国家試験の勉強も同じです。とにかく復習です。

ENA: 聞いただけでも大変なのがわかります。普段はどのように勉強されているんですか?

別所: 学会に参加したり、論文を読んだり。珍しい症例に出会ったときは、自分で論文を書いて発信しなければなりません。それから何より、若手の頃から先輩の手術をたくさん見学してきたことが血肉になっています。

ENA: 見学だけでも自分の知識になりますか?

別所: もちろんです。実際に執刀したわけでなくても、「あのとき先輩はこうしていたな」という記憶があれば、対処法がひらめくんですよね。だから若手の先生も一つひとつの症例にしっかり向き合い、ぜひ課題をもっていろんな手術に立ち会ってみてほしいと思います。

ENA: はい、積極的に勉強しようと思います!

患者さんの人生まで考えた治療

別所先生の仕事ファイル

臨床 平日は東京医療センターに常勤し、外来や手術を担当。自分が執刀した患者さんが入院されているときは、土日も顔を診に行く。
講義 隣接する大学や出身大学での講義や、近隣の中学校・高校でがん教育も行う。がん教育では、がんに関する正しい知識を伝えるほか、「身近にがんになった人がいたらどう考えるか」といったテーマを投げかけ、誤解や偏見の解消に努めている。
セミナー 口腔がんに関する歯科医師会向けのセミナーや、一般向け講演も担当。玉川歯科医師会が発案した「レッド&ホワイトリボン」は口腔がん撲滅運動の証し。その歯科医師会が一番患者さんを紹介してくれている。
レッド&ホワイトリボンのバッジ
レッド&ホワイトリボンのバッジ

ENA: 本当にさまざまな症例に対応されていますが、治療方法を考える際は何を基準にされていますか?

別所: まずは、患者さんに最も負担がかからず、術後のQOLを保てるような方法を考えます。ただ、がんの場合は「取りすぎないようにする」と「取り残さないようにする」のバランスが難しいですね。

ENA: たしかに…。切除する部分の大きさによっては、その後の生活にもかかわってきそうです。

別所: そうなんです。顎を取らなければいけない症例だったりすると、「今後どうやって生活していくのか」を考えて悩むこともあります。メリットやリスクは詳しくお伝えした上で、最終的にはすべて切除するのか残しておくのかをご本人に決めていただくんですが…。

ENA: ご本人としても苦しい選択ですよね…。

別所: ただ、顎を取った場合も、脚の骨を移植して元の状態に近づけることはできるんです。定着に2、3年はかかってしまいますが、インプラントを入れてちゃんと噛めるようになった方を何人も見てきました。

ENA: すごい! 普段通り食事ができるのは本当にうれしいと思います。大きい手術だと、術後の管理も大切になってきますよね。

別所: そうですね。患者さんはやっぱり早く退院したいと思いますが、退院後に何かあっては困るので、そのあたりも天秤にかけながら。できるだけご本人の希望に沿いつつ、安全性も重視しています。

ENA: お話を伺っていると、患者さんのことを心から考えていらっしゃるのがわかります。

別所: もちろん症例によってすべての希望を受け入れられるわけではありませんが、「患者さんファースト」は常に意識しています。その点でいうと、最近は認知症の患者さんへの対応も課題のひとつです。治療の重要性を説明しても理解できずに拒否されたり、口を開けてもらえなかったりして、ご本人の意向を伺うのが難しいんですよ。

ENA: そういった場合はご家族とお話されるんですか?

別所: はい。重度の認知症だと手術を望まれないこともありますし、逆にどんなに進行していても手術を希望される場合もあるので、ご家族の意向もしっかり聞きながら方針を立てるようにしています。

ENA: ご本人だけでなく、周りの方とのコミュニケーションも大切なんですね。診断や治療が難しいと思ったときは、どのように解決されていますか?

別所: プライドを捨てて質問します! 先輩や後輩を問わず、その道のプロに相談するのが一番ですから。

ENA: 経験年数は関係ないんですね! 大きな病院だと、他科の先生との関わりも多いのではないでしょうか。

別所: その通りです。ここに来る患者さんの中には、複数の病気を併発している方もいます。たとえば口腔がんの治療で受診したけれど、調べてみたら乳がんが見つかったということもあるんです。そういうときは他科の先生と相談しながら、どちらの治療を優先すべきか考えたりもします。

ENA: 同じ病院の中で相談し合えるとスムーズですね。

別所: 逆に、他科から相談を受けることも多いですよ。乳がんや前立腺がんの治療では、骨転移を予防するために骨を強くする薬を使うんですが、口腔状態が悪いと顎の骨を壊死させてしまう可能性があって。だからまず私たちが口の中を診て、薬を使えるかどうか判断しています。あとは、ほかの総合病院から相談を受けることもあります。

ENA: そうなんですね! それは歯科以外の先生からですか?

別所: そうです。近隣の病院では、歯科口腔外科を設けているところがあまりないんですよね。というか、全国的に見ても非常に少数。口の中に違和感があったらすぐ受診できるように、もっと病院歯科が増えていったらいいなと思うんですが。

ENA: はい。他科との連携についてお聞きして、より病院歯科の重要性を実感しました!

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