公務員から企業まで…。開業医以外の働く道リスト
開業医だけじゃない! さまざまな道で輝く歯科医師たち #1 会員限定歯学部卒業後の進路は、「開業医に就職」「大学に残る」だけだと思っていませんか?
実は、それ以外にもいろんな道があるんです!
今回は、歯科医師資格を生かして活躍できる6つの仕事をご紹介。仕事内容や条件、どんな人に向いているかまで詳しく解説しています。
将来進む道が決まっていない人はもちろん、「開業医に就職しよう」と思っていた人も、ぜひキャリアの選択肢を広げるきっかけにしてください!
歯科医師資格を生かして活躍できる6つの仕事
医系技官
国家公務員として、医療・健康に関する行政に携わる
医系技官とは、医師・歯科医師の資格を持つ国家公務員のこと。医学や公衆衛生に関する専門知識を活かして、政策の立案や実施に関わり、国家全体の課題解決に取り組みます。
採用の窓口は厚生労働省で、通常の国家公務員試験は免除され、医系技官専用の採用試験を受験します。代表的な働き方としては、厚生労働省本省内の各部局に所属して、保険制度の検討や医療計画の策定など、厚生労働行政を幅広く担います。ほかにも、検疫所や研究施設など厚生労働省の附属機関や、内閣官房や環境省などの他府省庁、国立病院、国際関係機関などで活躍する医系技官もいます。
医系技官に求められるものは、医師・歯科医師としての専門性と、行政官としての専門性です。採用後はメンター制度のもとで学び、「主査」「補佐・専門官」「室長・企画官」などのキャリアパスを経ながら、この2つの専門性を高めていきます。
ゆくゆくは幹部職員として、大きな判断を任される立場に立つことも目指せます。また、医系技官になったからといって臨床を必ず諦めなくてはいけないということはなく、「兼業制度」を利用して医療の現場に立ち、その経験を医療政策に役立てることもできます。
勤務体制は配属先にもよりますが、公務員のため原則として土日祝休みで、所定の就業時間は短めです。また、公務員宿舎が利用できるなど、福利厚生も手厚いのが特徴。給与は総合職の国家公務員と同等で、安定性は非常に高いです。ただ、多くの国家公務員と同様に、実質の労働時間は長く、激務となることを覚悟しておいた方がいいかもしれません。
医系技官の一番のやりがいは、なんといっても「社会に貢献できること」。大局的な視点で物事を考え、社会の課題解決に取り組んでみたい方に向いている仕事です。また、行政機関では、医療現場以上にさまざまな立場の人との協力が必要とされます。事務官や他職種の技官と協力し、多くの関係者との調整も図りながら業務を進めていくので、粘り強くコミュニケーションを取れる方が活躍できそうです。
医系技官の採用データ
必要資格 | 歯科医師資格(臨床研修修了/見込みを含む) |
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初任給 | 約23万円(その他、約5万円の調整手当あり) |
選考方法 | 書類審査(履歴書、エピソードシート、小論文、推薦書)、グループディスカッション、性格検査、面接 |
公衆衛生歯科医師
地域の歯科口腔保健を担い、住民の健康を守っていく
都道府県や市町村に就職し、地方公務員となる働き方です。主な勤務先は、地方行政機関の医療・健康に携わる部署や、保健所や保健センターなど。歯科知識の普及啓発活動の企画を立てたり、住民の歯科検診や歯科相談に対応したりと、地域の歯科口腔保健に関する幅広い業務に携わります。歯科医院に通っていない人も含めて幅広い層にアプローチするため、デンタルIQの「底上げ」に貢献できる仕事と言えるでしょう。
また、所属部署内には歯科医師や歯科関係者が少ないことが多く、他職種とのコミュニケーション力が磨かれると同時に、周囲から頼りにされるやりがいも感じられそうです。
採用は、一般の地方公務員とは別で行われます。新卒・既卒の区別はなく、採用人数は1〜数名と少ないことがほとんど。中には、「経験5年以上」などの条件を設ける場合や、任期付職員として募集している場合もあります。
公務員のため、土日祝休みで就業時間は8:30〜17:00頃と、労働条件は良好。また、給与は歯科医師経験5年で月収50〜60万円程度、年収800〜900万円程度が標準的なので、一般的な地方公務員と比べるとかなり高めです。歯科医院に勤務する場合と比べても、大きな遜色はなさそうです。昇進制度や福利厚生も確立されているので、安定した収入や立場が見込めることも魅力です。ただ、国家公務員ほどではないにせよ、自治体によってはかなり忙しい場合もあります。
公衆衛生歯科医師は、行政の立場から地域の健康向上に寄与できるとともに、実際に住民と接触する機会があることが特徴です。「社会貢献に興味がある」「自分が生まれ育った自治体の健康増進に関わりたい」「地域の口腔意識を高めていきたい」という想いのある人は、公衆衛生歯科医師として活躍できるでしょう。
公衆衛生歯科医師の採用データ
必要資格 | 歯科医師資格(臨床研修修了/見込みを含む) ※自治体によっては5年以上の経験が必要 |
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初任給 | 約57万円 |
選考方法 | 書類審査(志望理由書、一般論文、専門論文)、面接 |
一般企業の社員や経営者
専門知識とアイデアを生かし、企業の立場から歯科業界を支える
歯科医師が臨床現場で診療を行う際には、何らかの方法で患者様やスタッフを集め、さまざまな材料や機材を使用し、システムを使って情報を管理し…と、多くのツールを使用しています。これらのツールを「開発する側」「提供する側」に立つのが、歯科医師が一般企業に所属する場合の代表的な仕事内容です。
例えば、歯科治療機器や材料のメーカー、製薬会社、歯科業界向けのコンサルタントなどでは、歯科医師ならではの専門知識や視点を生かして活躍できます。「歯科医院の経営者」という立場では、自分の医院以外への影響はどうしても限定的になりますが、歯科業界全体に変化をもたらすことができるのが、一般企業で働く醍醐味です。
一般企業で働きたいと考えた場合、すでに存在する企業の場合は、採用窓口に応募することになります。また、それ以外に、「自分で起業する」という方法もあります。歯科医師として診療を行う中で、あるいは歯学部で学ぶ中で見つけた課題を解決するために、一から会社を立ち上げている歯科医師もいます。
一般企業で働く場合の就業環境は、各企業によって大きく異なります。安定した収入や手厚い福利厚生が魅力の大企業もあれば、業界内の立場は不安定でも「ワクワク感」を味わえ、高収入も期待できるスタートアップ企業も。幅広い選択肢の中から、業務内容や待遇、企業風土などを吟味して自分に合った環境を選べることも、一般企業で働く魅力です。さらに、歯科医療関係者だけでなく、さまざまなバックグラウンドを持った仲間と出会ったり、部署を超えて協力し合うことで、社会人としても成長できるでしょう。
歯科医療業界にとらわれずに広い視野で働きたい人や、普段の生活の中で課題によく気づき、それを解決するためのアイデアが湧いてくる人、「歯科業界にイノベーションを起こしたい!」という熱い気持ちのある人は、一般企業で働くという道を検討してみても良さそうです。
一般企業の採用データ
必要資格 | 原則なし |
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初任給 | 平均23万円 |
選考方法 | 書類審査(エントリーシート、履歴書)、筆記試験、グループディスカッション、面接など ※企業による |
食品衛生監視員
「食の安全」を守る、縁の下のプロフェッショナル
食品衛生監視員をひとことで言うと、「食の安全を守るプロフェッショナル」。流通する食品に食中毒の危険がないか、有害物質の含有量は基準量以下かどうかなどを検査し、必要があれば改善指導をします。また、飲食店や製造所などの環境が基準に合致しているか等を調査し、営業を許可する業務も担います。
そして、実際に食中毒が起きてしまった場合には、原因の調査や、被害拡大防止・再発防止の措置を行うことも。さらに、住民から寄せられる食品に関する相談に対応することもあります。病理学や微生物学をはじめとした専門知識を生かせるとともに、各種研修や業務を通して、食品衛生に関する知識とキャリアを積み上げることができます。「食」に深い関心のある人にとって、やりがいを感じられる仕事です。
食品衛生監視員には誰でもなれるわけではなく、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師の資格を持っていることや、畜産学や農芸化学を大学で学んでいることなどの条件があります。また、食品衛生監視員には国家公務員と地方公務員の場合があり、歯科医師免許のみで応募ができるのは地方公務員です。国家公務員として食品衛生監視員を目指す場合は、他大学など指定の養成施設で、所定の課程を修了することが必要になります。
地方公務員として働く場合の配属先は、地域の保健所や、市場などの流通拠点、研究所、都道府県庁や市役所などです。休日や労働時間などの就労条件は一般的な公務員と同様の場合が多く、福利厚生や昇進制度なども充実した安定感バツグンの働き方です。
地方公務員の食品衛生監視員に応募する際は、一般的な地方公務員と同様に、各自治体の採用試験を受験します。ただし、自治体によって、「食品衛生監視員」としての採用枠を設けている場合や、「農芸化学」などの区分で採用し、その後食品衛生監視員に任用する場合、また、「獣医師」「薬剤師」などの免許資格職として採用する場合など、さまざまなようです。自分が就職を希望する自治体で、歯科医師を食品衛生監視員として採用しているかどうかは、あらかじめよく調べておいた方が良いでしょう。
食品衛生監視員の採用データ
必要資格 | 歯科医師資格 |
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初任給 | 約22万円 |
選考方法 | 筆記試験(教養、専門)、小論文、面接、グループディスカッション |
歯科医官
「歯科医師の自衛隊員」として、国を守り、命を救う
歯科医官は、自衛隊員として働く歯科医師です。陸・海・空のいずれかの自衛隊に入隊し、普段は自衛隊病院や各部隊で、自衛隊員やその家族の診療・検診を行っています。また、災害復興支援や国際的な医療活動に参加したり、海上自衛隊の場合は長期の航海に乗船したりと、活躍の場は多岐にわたります。
階級が上がると、衛生隊長や司令部などのポストに就くこともあります。また認定医取得を目指したり、自衛隊病院や研究機関で研究を行ったり、海外に留学したりと、歯科医師としての専門性を高めることも可能。自衛隊の業務の性質上、外傷に対応する機会が多いので、特に口腔外科分野に強みを持てるでしょう。
歯科医官になるには、大学歯学部を卒業後に採用試験を受け、「歯科幹部候補生」として自衛隊に入隊します。入隊後は約6週間、幹部候補生学校で訓練などに参加した後、自衛隊病院や防衛医大で2年間の臨床研修を行ってから各部署に配属されます。入隊前に臨床研修を終えていた場合も、改めて研修を行うことになっています。そのほか、一般の診療所などで歯科医師としての経験を積んでから、「歯科幹部候補生」または「歯科幹部」として入隊する方法もあります。
歯科医官を含む自衛官は「特別職国家公務員」という立場であり、完全週休2日制や各種福利厚生、寮など、充実した就業環境が用意されています。ワークライフバランスへの配慮も十分にあり、家庭や育児と両立しながら活躍している隊員が多くいます。
歯科医官の仕事の一番の特徴は、やはり組織としてのミッションの重要性。国を守ったり、災害時に人の命や生活を救ったり、国際平和に貢献したりと、大きなやりがいを感じられる仕事ばかりです。また、隊員同士の絆が深く、活発にコミュニケーションを取りながら切磋琢磨できることも、自衛隊で働く魅力の一つ。「防衛の仕事に興味がある」「災害派遣に参加したい」「仲間とともに頑張りたい」「さまざまな場所で仕事をしてみたい」という方にとって、歯科医官は選択肢のひとつになりそうです。
歯科医官の採用データ
必要資格 | 歯科医師資格(臨床研修修了/見込みを含む) |
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初任給 | 約24万円(経験・地域によりその他手当がつき、最大42万円が支給される) |
選考方法 | 筆記試験、口述試験、身体検査 |
研究員
歯科医療のさまざまな課題を、根気強く解き明かす
歯科医師の研究職というと大学病院に残る進路が身近ですが、それ以外にも、「研究員」として歯科医師が活躍している場があります。「国立長寿医療研究センター」「国立国際医療研究センター」など国立の研究所や、各都道府県の医療系研究所など、公的な研究機関が代表的。新しい治療・予防法の研究や、オーラルフレイルに関する研究、歯科診療体制に関する研究など、歯科医療や公衆衛生に関する幅広い研究を行っています。一方で、製薬会社や医療系IT企業など、民間企業で研究員として働く道もあります。
公的な研究機関の場合は公務員に近い立場のため、土日祝休みや早めの終業時間など、安定した就業環境が期待できます。研究員の募集は公募で行われますが、募集の機会や募集人数が少なく、まさに「狭き門」。非常勤や任期つきの研究員として採用されるケースも多く見られます。各研究機関のホームページなどでこまめに情報をチェックしながら、長い目でチャンスを待つ必要がありそうです。民間企業の場合の就業環境は千差万別ですが、歯科医師の資格を持っていることで、無資格者よりも給与面で優遇されることが多いでしょう。
研究員として働く醍醐味は、歯科に関わる現象の機序や課題解決方法などを、自らの手で解き明かしていけることです。ひとつひとつの研究成果は小さなものかもしれませんが、それが積み重なることで、歯科医療や社会の流れを大きく動かしていく力になります。研究員は、物事に根気強く取り組むことが得意な人や、「なぜそうなのか」を論理的に突き詰めて考えることが好きな人などに向いているでしょう。
研究員の採用データ
必要資格 | 歯科医師資格(臨床研修修了) ※研究・論文発表の実績を求められる場合が多い |
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初任給 | 時給約2,000円 |
選考方法 | 筆記試験(履歴書、業績目録、志望理由書)、面接 |
歯科医師として輝ける仕事は、意外といろんな分野に広がっています。「こんな働き方があったんだ!」と驚いた方もいるのではないでしょうか。
学生時代は勉強や実習で頭がいっぱいかもしれませんが、ぜひ少しずつ将来の自分をイメージしていってくださいね。
次回は、一般企業で働く歯科医師のインタビューを掲載! 「数十万人の患者さんを救える仕事」とは…? どうぞお楽しみに!
文/柳原梢子
※「仕事データ」はあくまで一例です。詳しくは公式の募集要項をご確認ください。