歯学部生からの相談内容【過換気症候群とテタニー症状の仕組み】
歯学部生の学習お助けユニット“JYP”のCBTレベル「勉強相談室」Q&A #1 会員限定歯学部生なら避けては通れないCBT。臨床実習を受ける資格を得るためにパスしなくてはいけない試験ですが、コンピューターで行われるテストということもあり、問題の予測はなかなか難しいところ…。そこで、CBTを受験するまでにマスターしておきたい学習範囲のなかから、歯学部生から募集した難問について、勉強お助けユニットJYP(ジュンヤとジュンペイ)がレクチャー! 毎月1問、じっくり教えてもらいます。
【今月の相談内容】
過換気症候群とテタニー症状の仕組み
Answer!
ご質問ありがとうございます! 過換気症候群に対する理解は、CBT・定期試験レベルから国家試験レベルまで幅広い範囲で必要ですね。過換気症候群で起こる症状について知っているだけではなく、その症状がなぜ生じているのか一歩踏み込んで聞かれることも最近では多くなっています。なんとなくのイメージで理解していた人も症状からメカニズムまで一緒に確認しておきましょう。
①過換気症候群とは? なりやすい人は?
過換気症候群では、極度の不安や緊張による精神的なストレスから息を激しく吸ったり吐いたりする過剰に呼吸をしてしまう状態となり、血液が塩基性(アルカリ性)になることで様々な症状が現れます。歯科臨床においても、治療や局所麻酔に対する不安や緊張から過換気症候群を生じてしまうことがあります。
過換気症候群になりやすい人(好発者)は、年齢が比較的に若く、また男性よりも女性に多いです。過去の歯科医師国家試験における問題文中でも多くが10代〜40代の女性となっています(109回B50、110回B34、108回B 23など)。また、神経質な人や几帳面な人など不安や緊張を感じやすい人がなりやすいと言われています。
②過換気症候群の症状と対処
患者さんが自覚する具体的な症状として、息苦しさ(呼吸困難感)、呼吸が速くなる(呼吸数増加)、動悸、胸の痛み(胸部圧迫感)、めまい、手足や口の周りのしびれ、手足などの筋肉がけいれん、硬直を起こすテタニーと呼ばれる症状があります。テタニー症状の具体的なものとして、手をすぼめたような形となる「助産師様の手」があり、歯科医師国家試験にも写真で出題されたことがあります(106回D11)。息苦しさについては、実際に呼吸ができない呼吸困難ではなく、呼吸困難感であることに注意が必要です。アナフィラキシーショックなどで生じる呼吸困難では呼吸に伴って「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音(喘鳴:ぜんめい)が出ることが多いので、過換気症候群ではそのような症状がない呼吸困難感であることを確認しましょう。
バイタルサインに関連して確認すると、呼吸数は病名が表しているように増加します。脈拍は動悸のように少し増加し、意識はめまいなどのように意識レベルが低下することがあります。そして、血圧が変化せず正常であることがとても大切です。アナフィラキシーショックや血管迷走神経反射では血圧が低下し、アドレナリンに対する過敏症や局所麻酔薬中毒の初期では血圧が上昇するので、過換気症候群を、その他の局所麻酔時に生じる可能性のある偶発症と見分けるポイントになります。ちなみに、バイタルサインは脈拍、呼吸、呼吸、血圧、体温の4つと意識を合わせて5つを覚えておくと良いでしょう。(語呂合わせ:卑弥呼けったい:意識、脈拍、呼吸、血圧、体温)
過換気症候群となってしまった患者さんには、安心してもらうように伝えてゆっくりと呼吸するように努力してもらうようにします。不安が非常に強い患者さんには抗不安薬としてミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系の薬剤を投与することもあります。以前はペーパーバッグ法といって紙袋を口と鼻を覆うようにあてて、二酸化炭素濃度の高い吐いた息を再び吸い込むことによって血液中の炭酸ガス濃度を上げる方法があり、国家試験にも出題されたことがありました(99回D59)。しかし、逆に酸素不足となって窒息してしまう可能性があるために現在ではペーパーバッグ法は勧められていません。
③過換気症候群のメカニズム
それでは、質問の過換気症候群がテタニー症状が起こすまでのメカニズムについて見ていきましょう。表中のメカニズムの流れについては理解して、何が原因でその状態が起きているのかは全員が分かるようにしておきましょう。間に小さい文字で書いた理由については覚える必要はありませんので気になる人は解説を読んでみてください。
呼吸数の増加(過換気)によって、肺での酸素取り込みと二酸化炭素の呼気への放出が促進されるため、血中の二酸化炭素濃度が低下します。血中の二酸化炭素は炭酸として溶けて存在しているため、二酸化炭素が減少することで血中の炭酸が減少し血液のpHが塩基性(アルカリ性)に変化します。血液のpHは7.35〜7.45(7.40±0.05)の間で保たれていますが、pHが7.45以上になることをアルカローシスと言います。血液中のアルブミンは酸性で+に荷電し、塩基性で−に荷電する性質があり、過換気に伴うアルカローシスでは–に荷電します。すると血液中のカルシウムイオン(Ca2+)と結合しやすくなるため、血液中のカルシウムイオンの濃度は低下した状態(低カルシウム血症)になります。難しい話になりますが、細胞外のカルシウム濃度が低下するとNa+チャネルが開口しやすくなり活動電位が発生しやすくなるため神経の興奮が高まるようになります。すると神経による過剰な刺激が筋肉に加わるために筋肉が過剰に興奮し、手足のけいれんや硬直を引き起こします。
参考:「I-04 過換気症候群」日本呼吸器学会ホームページ
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-04.html
執筆/渡部準也 宇梶淳平
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