審美歯科の魅力は、年収だけじゃない――立川 惇里先生
大学の先生とは違う視点の助言が新鮮! 人気ドクターの進路相談室 #3 会員限定将来の目標が決まっている人、まだ考えられない人。好きなことが見つかっている人、何が得意かわからない人。それぞれ状況は違っても、「進路にまったく悩んでいない」という歯学部生はいないのではないでしょうか。
そんな歯学部生のために、各分野で大人気のドクターによる進路相談室を開設! どうすれば理想の歯科医師人生を送れるのか、学生時代に何をしておくべきか……歯学部生のあらゆるギモンに、まっすぐ答えてもらいました。
第2回のアドバイザーは、各SNSで実際の症例をアップし、100万回以上のいいね数を誇る人気の審美歯科医 立川惇里先生。大学の授業では聞くことのできない美容業界の審美歯科について伺いました。
今回相談に乗ってくれたのは…
立川 惇里先生
2016年、昭和大学歯学部卒業後、日本歯科大学附属病院に勤務したのち、2017年、SBCメディカルグループに入職。2018年、湘南歯科クリニック 大宮院の開業にともない、最年少で院長に就任。2021年よりX CLINIC銀座院 歯科部門院長。日本審美歯科学会会員。セラミック治療を得意とし、多くの著名人やtiktokerの治療を担当。自身も前歯はすべてセラミック治療済み。
2016年、昭和大学歯学部卒業後、日本歯科大学附属病院に勤務したのち、2017年、SBCメディカルグループに入職。2018年、湘南歯科クリニック 大宮院の開業にともない、最年少で院長に就任。2021年よりX CLINIC銀座院 歯科部門院長。日本審美歯科学会会員。セラミック治療を得意とし、多くの著名人やtiktokerの治療を担当。自身も前歯はすべてセラミック治療済み。
日本歯科大学5年生・大村聖良さんの相談
現在5年生の大村さんは、臨床実習でいろいろな科を回るうちに興味が広がり、専攻を迷われているそう。美容クリニックの歯科部門で院長をされている立川先生は、SNSで審美のさまざまな症例を発信し、先生目当てに訪れる患者さんが多数。そんな立川先生に審美歯科について詳しいお話を伺いました。
好きな治療と続けて行ける治療は分けて考える
大村:先生はSNSなどでも活躍されていて学生たちの間でもかなり有名なので、今日はお会いすることができてとても光栄です!
立川:私も学生さんとお話しする機会はあまりないので楽しみにしていました。
大村:さっそくですが、先生が審美に進まれたきっかけは何ですか。
立川:私の場合は実家が歯科医院で、父の医院を継ぐというのが歯科大に入った理由でした。でも、ご存知の通り、一般の歯科医院は飽和状態でしたし、「好きな治療」と「続けていける治療」は分けて考えなければいけないと思うようになりました。審美を選んだのは、自分が好きなだけでなく、これからニーズが高まる分野だと思えたからです。
大村:そうだったんですね。
立川:自費治療の道に進もうというのは早い段階から決めていたのですが、最初はインプラントを専攻しようと思っていました。ただ、それで大学に残って博士まで‥となると、けっこう時間がかかってしまう。奨学金を借りていたこともあり、早く稼げるようになりたいという考えもありました。
どうしようか悩んでいる時期に、SNSでセラミック矯正の存在を知り、さっそくInstagramでセラミック矯正について発信している先生に話を聞きに行きました。それが「ダイヤモンド今井クリニック」の今井邦彦先生です。当時は湘南美容歯科の歯科統括院長をされていました。医院を見学させてもらったり、セラミック矯正のよさや治療内容などを聞くにつれて、審美の道へ進もうと思うようになりました。それが4年生のときですね。その時点で、進路は決めていました。
大村:早いですね! そこでそのまま湘南美容外科に入ったんですね。
立川:実はかつて、湘南美容外科クリニック主催の“ドクメンコンテスト(医学生や歯学生対象のイケメンコンテスト)”に出場したことがありまして。その繋がりもあったので、就職は自然な流れで湘南美容グループに入職しました。
大村:新卒の歯科医師で湘南美容外科に入るのは難しそうですよね。
立川:研修後に入職したのは私が初めてでした(笑)。
大村:すごい!
ゼロからイチへ、幸せを作っていく仕事
大村:審美については歯学部生でもよく知らない人がほとんどだと思います。都心のきらびやかなクリニックで富裕層を相手に‥というイメージがあります。
立川:富裕層の方向けというイメージもあるかもしれませんが、今後はものを消費する時代から健康や美容に投資していく時代に変わっていくと考えているんです。一部の人だけでなく、もっと広まっていくと思いますよ。
大村:なるほど。審美歯科はまさしく投資にあたりますよね。審美歯科の魅力ってどういうところですか。
立川:審美歯科は、虫歯や歯周病などを治すようなマイナスを0にする治療ではなく、0を1にする仕事です。その方の悩みを聞き、解消するお手伝いをすることが治療の目的であり、私自身も、審美治療に救われた一人です。治療した数=幸せにした人の数だと思って、その数をどんどん増やしていきたいと思っています。
大村:幸せにする治療って素敵です!
立川:あと、自由診療なので、各患者さんの細かいニーズに沿ったオーダーメイドの治療ができることですね。歯科医師とお客様が――当院では患者さんではなくお客様と呼んでいるんですが――保険を介さない1対1の関係なんです。互いに信頼し、リスクを取る。そのぶん、チャレンジできる選択肢が多いのが魅力です。
大村:その分、給与面でも一般歯科より良さそうですね!
立川:入職1年目の年収は、1,200万円くらいでした。
大村:1,200万円……! 夢がありますね。
立川:臨床研修が終わってすぐに入ったのですが、それなりに努力を認めてもらえたのかなと思っています。何しろ当時は一心不乱で、時間を気にせず働いていましたから(笑)。もちろんずっと無茶な働き方をするつもりではなく、技術を一気に習得してしまえば、楽になることはわかっていました。
大村:入職したときから、ある程度の技術はあったということでしょうか。
立川:いえ、ほぼ何の技術も持っていない状態でしたよ。自費治療のクリニックなので、いきなり患者さんの歯をさわることはもちろんできません。1ヶ月くらいはほぼ見学だけで、少しずつ可逆的な治療からやらせてもらってという感じです。あとはひたすら、模型を使った自主練習ですね。模型の歯を100本以上削ったと思います。
大村:凄まじい努力をされたのですね。
実践で養っていった経営者の目線
大村:先生は若くして湘南美容外科の歯科院長に就任されていますよね。
立川:はい。患者さんが多かったのと、ちょうど増院するタイミングだったこともあり、入職して8ヶ月で新規院の院長になりました。
大村:8ヶ月ってだいぶ早いですね。経営面はどのように学ばれたのですか。
立川:最初は自分が尊敬する院長のやり方を見習って、真似をしていくことから始めました。あとは実地で、トラブルも含めさまざまな経験から、院長としての責任感やマネジメント術、経営、自分の体調管理などを学んでいったという感じです。
大村:経営で大事なことってどんなことだと思われますか?
立川:それは、自分の中でも徐々に変わってきたのですが、最初はやはり「数字」。クリニックを維持していくために、利益率を上げることを重視していました。2,3年して経営が安定したころ、力を入れたのがスタッフとのコミュニケーション。目標を達成するには、チームの力が大事だと実感しました。3,4年目からは、攻めていくと同時に守りも固めること。情報漏洩、医療事故などから医院を守ることですね。
とはいっても、大手だったので院長だけが重荷を背負うわけではなく、エリアマネージャーや渉外担当などもいて、さまざまなサポートがありました。そこがチームで動ける大手の良さだと思います。
大村:サポート体制が整っていると安心感がありますね!
人間のやることに100%はないからこそ失敗を糧に
大村:自由診療だと特に、少しの失敗も許されないのではないでしょうか。でも失敗って、ありますよね……?
立川:いずれにしても医療行為なので失敗は許されないのですが、やはり人間のやることですから、100%ではない。若いうちはなおさらですね。皆さんがこれから取る資格というのは、多くの方を助けられる資格です。失敗したと思っても、それを糧にしてスキルアップし、その患者さんはもちろん、未来の患者さんを助ける力にしていってほしいです。同じような状況に陥った先輩は絶対いるはずなので、失敗したと思っても、あまり抱え込まず、どんどん相談したらいいと思いますよ。
大村:そう思えるように頑張ります。患者さんからのクレームがあった場合は、具体的にどう対処されてきたのですか。
立川:私もある程度の経験を重ね、自分の技術に自信がついてきた時期に、強烈なクレームを受けたことがあります。あるお客様のセラミックが何度も取れてしまったのですが、土台や咬み合わせの問題もあり、当時はどうしても自分が悪いとは思えませんでした。でも、お世話になっていた先生から、「ここはしっかり謝罪しましょう。この経験を学びにして、治療に活かしましょう」と言ってもらい、自分の慢心を恥じました。
いま思えば、見立てが甘かった部分もありましたし、自由診療ですから、自分にできること・できないことを明確にすることが大事なんですよね。それはいまも肝に銘じています。あのとき、お客様に直接謝罪できたのは、本当にありがたいことでした。場合によっては謝ることも許されず、間に人を入れざるを得ないケースも考えられますから。
大村:失敗を素直に認めることも大切なんですね。
美容業界ではSNSでの情報発信がマスト
立川先生のある1日のスケジュール
朝 | 自宅でYouTube撮影 支度をして出勤 |
---|---|
10:00~19:00 | 診療(1日3~10人) 1人6時間の診療をすることも 合間にYouTube編集、Instagram更新 |
診療後 | TikTok撮影・編集・更新 YouTubeは月8本 Instagram&TikTokは毎日更新 |
大村:先生はTikTokやInstagram、YouTubeなど多くのSNSの発信でも有名ですが、始めるきっかけは何かあったのですか?
立川:そもそもセラミック治療の先生をSNSで知ったということもあり、その先生から勧められてInstagramを始めました。やり方そのものや、どうすれば多くの人に見てもらえるかといったベーシックな部分も教えていただきました。あとはノウハウ本を呼んだり、講習にも行きました。
大村:毎日の診療でお忙しいなか、続けていくのは大変だと思いますが、編集もすべてご自分でなさっているのですか?
立川:はい、全部自分でやっています。美容業界では、SNSでの情報発信が重要なマーケティング戦略のひとつで、SNS経由の集客は自分の収入にも反映されます。編集を外部委託することも出来ますが、撮影も編集も自分でやれば利益率は高くなりますから。実際、うちに来てくださるお客様のほとんどがSNS経由です。
大村:ということは、このクリニック(X CLINIC 銀座院)で、というより「立川先生」に診てもらいたいというお客さんがほとんどという……。
立川:そうですね。ほぼ全員、私個人のTikTokかInstagramを見て来てくださる方です。このクリニックでは、ほかの先生方も同様にセルフブランディングされています。
大村:先生目当てに来てくださるってとても嬉しいですよね。
立川:ありがたいことです。私がSNSを続けるのは、まだ広く知られていないセラミック治療のよさを、一人でも多くの人に知ってほしいという部分も大きいですね。私自身、ずっと八重歯がコンプレックスでしたが、セラミック治療のおかげで笑顔に自信が持てるようになりましたし、治療から6年経ちますが何の問題もありません。この経験をシェアしたいという思いがベースにあります。
大村:最初からSNSのPV数が高かったわけではないと思うのですが、先生の投稿が拡散されたり、オススメ動画として注目されたりと、「バズった」理由について、ご自身はどうお考えですか。
立川:セラミック治療は、まだ賛否両論ある新しい治療法なので、注目されやすかったということはあるでしょうね。実際の症例も一般の方からするとなかなか見る機会もないと思うので。TikTokに関しては、コロナ禍で始めた方が多いのですが、私はその少し前から始めたことで、目立つことができたのかなと思います。
大村:古参だったということですね!
立川:はい(笑)。そうですね。
進路選択のために学生の特権を生かして
大村:よりよい進路を選ぶために、学生時代にどんなことをやっておけばいいと思いますか。そもそも先生の学生時代って、どんな学生さんだったのでしょう?
立川:成績は良くもなく、悪くもなく…日々、飲み歩いていましたね(笑)。よく言えば、人脈づくりに邁進していました。学生のうちに大学以外の繋がりを持っておくのは、いいことだと思います!
大村:人脈づくりですか!
立川:そう。将来何がどう繋がるか、本当にわかりませんし、視野を広げることにも役立ちます。実際、今になって、当時からの友人が治療に来てくれたり、人を紹介してくれることもあります。私たちの感覚では、歯医者なんて周りに数えきれないほどいますが、一般の方にとって「知り合いの歯医者」は限られていますから。
大村:確かにそうですよね。学生生活は試験も多くそれなりに勉強時間もあったと思いますが、在学中と社会人になってからはどちらが時間をとれますか?
立川:学生時代もそれなりに忙しいですが、就職してからはもっともっと忙しく、人脈づくりや勉強の時間は限られます。勉強に関しては、学生のうちであれば無料のセミナーも多いので、今のうちに学生の特権をフルに活用してほしいですね。専門的な技術や知識を学ぶ機会があれば、少し遠回りしてでも学んでおくことをおすすめします。就職してからのスタートダッシュが違ってきますから。
大村:審美についてはどのようなことをしておくとよいですか?
立川:審美の分野は技術革新が目覚ましいので、最新の情報をチェックすることも大事ですね。たとえばマウスピース矯正はAIですべて計算できるので、いまやほとんどの治療が出来てしまうし、インビザラインにしてもそう。人間では不可能な部分をシステムがやってくれるので、今後、飛躍的に伸びていくんじゃないかと思います。気になる治療、先生がいたら、直接アポイントを取って聞きに行っていいと思いますよ!
大村:技術の進歩はすごいですよね。
立川:そうなんです。それから、技術だけでなく、接遇に注目するのもおすすめしたいです。接遇のスキルを身につけると、お客様の要望を聞く際も、クレームの際も、柔軟に対応できるようになると思います。CAさんなどの接遇講座を受講するのもいいし、例えば、人気の先生が初診でどんな話をしているのか気にしておくといいですよ。顎関節症の治療を専門的にされている先生は、メンタル面を考えて説明される方が多いとか、それぞれの先生によって見習うべき点があります。学生のうちは、まず試験に受かることが大事ですが、臨床研修ではぜひ、そうした部分にも視野を広げてみてください。
大村:はい! 処置方法だけでなく説明や質問への返答の仕方にも着目してみます!
ところで、歯科の中には最初は手広くやるべきという風潮があると思いますが、はじめから審美1本に絞ってしまっても大丈夫ですか?
立川:人生の選択はいつでも変えられるから大丈夫。やはりやりがいを感じられないと続かないので、広い世界を見ていろんなことを経験して、飽きないことに出会って欲しいと思います。最終的に自分は何が好きなのか、向き不向きは分かってきますから。
大村:いつでも変えられる。そう思うとなんだか気が楽になりました。いくらでもやり直せるということですね。好きなことに出会えるようにがんばります!
相談を終えて…
立川先生が教えてくれたこと
●審美は自分自身の裁量が大きいからこそ、自分次第でいくらでも成長できる
●自由診療だからこそお客様と密に1対1の関係を作り上げてやりがいを見出せる
●好きなことに出会うためには、いろいろなことに触れ、広く世界を知ることが大切
学生時代から精力的に世界を広げてきた立川先生。一歩踏み出すことで自分の世界が広がり、未来を拓くことができるということを、身をもって教えてくれています。みなさんも今後の学生生活で何ができるか、何がしたいかを考えて、一歩踏み出すきっかけにしてください。
撮影/服部健太郎 文/伊藤由起
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